表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
206/250

第206話 記者会見

「エッジスフィアと組んで、さくら放送やメトロ放送を乗っ取るという手段を取らなかったのはなぜですか?」

記者のこの質問に、記者会見の会場中の視線が景隆に集まった。


景隆は脳内で再生された過去の回想シーンを振り払って答えた。


「既存メディア――ここではラジオとテレビを指しますが、この既存メディアとインターネットは情報を伝達する意味では同じ役割を持ちます。

この二つが市場原理にもとづいた健全な競争を行うのは問題ないと考えますが、極端な対立構造を生み出すのは社会にとって損失となると考えました」


騒がしかった会場は静まり返り、景隆の話に耳を傾けていた。


「それでは、石動さんはこの対立を解消し、社会の混乱を収めるという目的でホワイトナイトになられたのでしょうか?」

「それもありますが、一番の目的は出資者の利益を最大限にすることを考えた結果、エッジスフィアさんを巻き込んで持株を譲渡することが最善と判断いたしました」

「つまりは営利目的ですね」

「はい、そのとおりです。先ほど申し上げましたメディアの対立を防ぐという目的もありましたが、まずは目先の利益を確保するためです」

「カシャカシャカシャカシャカシャカシャ」


景隆は記者の質問に対し、柊と相談してあらかじめ決めていた内容で回答した。

オペレーションイージスの真の目的を語るわけにはいかなかったため、もっともらしい目的を並べることで世間を納得させようという狙いだった。


後者の営利目的であることは本音であったが、前者の社会的意義を額面通りに受け取るかどうかは、これからの報道のベクトルに委ねられるだろう。

景隆としては英雄として祭り上げられるよりも、拝金主義的な目で見られるほうがマシだと思っていた。

これは、一度メディアに持ち上げられてしまうと、失墜したときにも目立ってしまうためだった。


「刈谷社長はこの石動社長の発言を受けて、どのように思われますか?」

「私は局の存続をかけてここまで戦ってきました。

しかし、石動さんが仰るような強い対立構造が生まれてしまったことは極めて遺憾であり、私の責任でもあります。

この厳しい状況を打開してくれた石動さんには感謝しております」

「カシャカシャカシャカシャカシャカシャ」


(くそー……やっぱこうなるよなぁ……)

刈谷は景隆を祭り上げることで、自分に対する批判を躱す狙いがあるのだろう。

この刈谷の発言で、景隆が述べた営利目的の部分がかき消されてしまう雰囲気を感じた。


「船井社長はいかがでしょうか?」

「僕も刈谷さんと同じ意見です。

石動さんは語っていませんが、実は当社の危機を救ってくれたこともあります。

彼がホワイトナイトでなければ、僕はまだメトロ放送の支配をあきらめていなかったでしょう」

「カシャカシャカシャカシャカシャカシャ」


会場からは「おぉっ」と歓声が上がっていた。

この船井の発言によって、会場内での景隆の評価がバク上がりしているのが見て取れる。

これは船井がメディアにとって敵であった状況を、景隆が打ち消した構図になったためだ。


会場内のほとんどはメディア関係者であるため、自分たちに対する脅威が消えた安心感と、それをもたらした景隆には称賛や敬意の眼差しが向けられていた。

こうなってしまうと、景隆が目立つのが必然となり、質問の多くは景隆に向けられることになった。

柊から目立ちすぎないように釘を刺されていたが、今の景隆には止めようがなかった。


「石動さんの会社はできたばかりなのに、これだけ巨額な資金調達を実現した秘訣を教えてください」

「出資者の情報に関するご質問にはお答えできません」

「石動さんはこれから船井さんのようにM&Aを――」


相次ぐ記者からの質問に、景隆は内心でげんなりしながらも、努めて紳士的に答えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ