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第205話 船井 vs 刈谷

「こうして直接会うのは初めてだな」

刈谷は船井に会うなり、こう言い放った。


「そうですね」

その刈谷を前に、船井は悠然と構えていた。


柊と刈谷の交渉が終わったことを受け、景隆と船井はメトロ放送の社長室に呼び出された。

メトロ放送の社長室はビルの最上階に位置しており、湾岸の景色が一望できる。

社長室には、刈谷のこれまでの功績を称えるようなトロフィーや表彰盾がずらりと並んでいた。


(なんで俺と柊まで……?)

船井はさくら放送の持株をメトロ放送に譲渡する意思を示したため、刈谷とその条件を詰めることになっている。

エッジスフィアとメトロ放送による二社の話し合いのはずが、刈谷は景隆まで呼び出していた。


刈谷は景隆を見定めるように見つめていた。

(この人が「メトロ放送の天皇」か……)

刈谷の経歴と性格については柊からひととおり聞かされている。

彼は局内で数多くの実績を積み上げ、叩き上げでトップまで上り詰めている。

柊によるとこの先も権力を維持し続けるようだ。


しかし、今の刈谷は少し疲れているように見えた。

反面、柊の表情には余裕があり、彼は船井の様子を観察していた。

(まさか、柊がコテンパンにしたってことか……?)


「石動くん、きみも随分若いんだな……驚いたよ」

「よく言われます」


刈谷は言葉通りに驚いているようだ。

その刈谷を見て、柊はさっと目をそらした。

(柊めぇ)

柊は景隆に関する情報を何一つ刈谷には伝えていないのだろう。


***


「率直に聞くが、船井くんがさくら放送の支配を諦めたのは何故だ?」

「放送事業より優先してやりたいことができたからですよ。

ここにいる石動くんとセットで交渉すれば、さくら放送株は高く売れそうですから」


船井はいけしゃあしゃあと言った。

実際には尾幌の動きを知った船井は追い込まれているが、そのようなことは微塵も感じさせない船井の態度に景隆は感心していた。


「何をやるか知らないが、手元資金が必要になったということだな」

()()()()()()カツカツなんですよ」

「そうか……」


実際にエッジスフィアを追い込んでいたのは刈谷であったが、そのようなことはおくびにも出していない。

船井もその点を追求するそぶりは見えず、社長室では狐と狸の化かし合いが始まった。


***


「正直なところ、エッジスフィア(きみのところ)の持株を全部買い取ってしまいたいけど、そうすると株主がうるさくてね」

「よくわかります」


船井と刈谷はさくら放送株を譲渡する条件の折り合いをつけていた。

エッジスフィアの持株をメトロ放送がすべて買い取ってしまうと、膨大な資金が必要となる。

この投資資金に見合った収益がさくら放送にはないため、株主からの反発を避けるよう、エッジスフィアの持株は段階的に買い取る方向で話がついた。


翔動とSPCの持株はすでにメトロ放送がすべて買い取ることで合意している。

刈谷は少しでも多く議決権を確保し、自分の地位と権力を安定させたいようだ。

このとき景隆は投資した資金で大きな利益を得た喜びを必死に隠していた。


「ところで、石動くん」

「は、はいっ!」


後学のために、船井と刈谷の交渉をつぶさに観察していた景隆は、唐突に刈谷に呼ばれて狼狽えた。


「私と船井くんが強い対立関係であることは知っているな?」

「はい」

「それが一転して船井くんが譲歩し、私もそれを受け入れた。

世間から見ると、大喧嘩していた二人が急に矛を収めたら不自然だと思わんかね?」

「ま、まぁ、そうでしょうね……」


景隆は刈谷の言わんとしていることがさっぱり理解できなかった。

船井と柊は刈谷の意図を汲み取っているようで、景隆のことを窺っている。


「そこでだ。きみはさくら放送……そして、メトロ放送のホワイトナイトとして振る舞ってほしい」

「ええええっ!?」

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