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第204話 二元交渉5

「え? そっち?」

景隆の要求がよほど意外だったのか、船井は鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。


「弊社と資本提携をしている霧島プロダクションはフォーチュンアーツによって苦境に立たされています」

「む、そうなのか……」


景隆は東郷によって、霧島プロダクションのタレントがテレビ番組の出演を減らされていることや、神代のスキャンダルが捏造されて報道されていることを説明した。


「ある程度は聞いていたが、そこまでひどかったのか……」

船井は景隆と同様に、芸能界の内情にはあまり興味がなかったようだ。


「狭山くんとは個人的な交流があってね。

その関係があって東郷さんに資本提携を持ちかけられたんだが、そんな状況にまでなっているとは思ってもいなかった。

僕としては芸能事務所同士の対立には巻き込まれたくない」

「じゃ、じゃあ……」

「すぐに資本提携の解消は難しいかもしれないけど、少なくともエッジスフィア(うち)を経由して東郷さんの意向が及ばないようにはできるはずだ。

そうなれば、向こうから見限ってくるんじゃないかな」


(よしっ!)

景隆は内心でガッツポーズをした。

そして、船井には気づかれないよう、境内電話のメールを使って柊に合図を送った。


「それにしても、石動くんがキリプロに入れ込む理由がわからないな」

翔動(うち)の初めてのお客さんで、これがきっかけで仕事が広がっていったんですよ」


景隆は映画のスポンサーになったことなど、霧島プロダクションとのつながりを船井に説明した。


「――ふむ、東郷さんのことは何とかなるとして、きみたちに刈谷さんを押さえることはできるの?」


船井の主張はもっともだろう。

刈谷が船井に対して行ってきた行動の数々は、誘導的で間接的だ。

刈谷が直接手をくだしていない以上、何とでも弁明ができてしまうだろう。


「柊は刈谷さんに対して強いカードを持っています。

柊の交渉が成功すれば、刈谷さんは手を引くでしょう」

「そのカードがわからないと、僕が納得できないじゃないか」

「そうですね……我々が取得したさくら放送の多くは逢妻さんから譲渡されました」

「なっ……!」


逢妻はさくら放送株を手放しているが、メトロ放送の大株主でもあった。

船井が手を引いた場合、刈谷にとって最大の脅威は逢妻になる。

その逢妻とつながりがあることを示唆したことで、刈谷への抑止力の一つとして認められるだろう。


「それに、メトロ放送は白鳥グループの逆鱗に触れてしまいました。

刈谷さんが約定を果たさなければ、白鳥グループを敵に回すことになります」

「そんなことが……きみたちは一体何者なんだ……?」


船井の景隆を見る目は、これまでとは明らかに変わっていた。


「ここだけの話だけど、実はメトロ放送からは手を引こうと思っていたんだ」

「へ?」

「青山銀行から融資を受ける条件として、さくら放送株を現金化することを要求されていたんだ」

「青山銀行はそんなことを言っていたんですね……あっ!」

「やはり石動くんの差し金だったのか」


船井はこれまで青山銀行のことは一切口にしていなかった。

景隆はカマをかけれて、まんまとはまってしまった。


「うぅ、俺もまだまだですね……」

景隆が落ち込んでいるとき、携帯電話に柊からのメールの着信があった。


「って俺もかよ!」

景隆はこのメールに驚いた。


「どうした?」

「柊からです。刈谷さんがお呼びだそうです」

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