第203話 二元交渉4
「我々が保有するさくら放送株を高値で買い取ってもらうことです」
「そりゃそうだけど、それなら僕でなく、刈谷さんのところに行くべきでは?」
「たしかにそうですね。ただ、船井さんと組む可能性に含みをもたせたほうが、刈谷さんとの交渉で優位に立てます」
「まぁ、一理あるが……それならば、僕と刈谷さんの両方に話を持ちかけて、高い方に売ればよいのでは? 現に北山さんはそうしている」
船井は納得していない様子だった。
「正直に申し上げますと、御社――船井さんを潰したくないんです」
「はあぁっ!?」
景隆の発言が予想外だったのか、船井は驚いていた。
「しかし……そうすると、これまでエッジスフィアを助けてくれたのも……」
「はい、それが理由です」
「石動くんはメトロ放送から手を引かせることが、エッジスフィアを助けることになると言っているんだね」
「はい、これから刈谷さんの攻撃はもっと厳しくなります」
「そうなる前に手を引けと?」
「はい」
「……」
船井は押し黙った。
これまで刈谷から受けた圧力は相当なものだろう。
景隆が知っているのはリース契約の解除や融資の差し止めだが、それ以外にもさまざまな攻撃があったのは想像に難くない。
景隆は船井よりも先回りして行動していたため、今後も刈谷の攻撃があるという発言には一定の説得力をもたせることができるだろう。
「石動くんはどこからその情報を得ているんだ?」
「すみません、それは申し上げられません」
「む、そうか……」
ここで情報源を打ち明ければ船井の信用は得られるだろう。
しかし、未来人の経験が根拠であると言ってしまえば逆効果だ。
「そもそも、僕を助ける理由は?」
「翔動は船井さんと同じくらい――それ以上に成長するつもりです」
「半導体を作るとか言っているくらいだから、そうなんだろうね。
志が高いのは結構なことだが、それと僕を助けるのはどう関係が?」
「今後、俺が船井さんのように目立ってしまえば、同じような目に遭う可能性が高いと思っています」
「つまり、その前例を作らないようにしたいと?」
「そのとおりです」
「……」
船井は景隆を見定めるように見つめながら考え込んでいた。
景隆は船井がこんな青臭い理由で納得するとは思っていなかった。
「まさか、それだけの理由で僕を助けると言っているわけじゃないよね?」
「はい、船井さんの安全を保証する代わりに、お願いしたいことがあります」
「ここまでやってくれたんだ。大抵のことは聞くよ」
景隆は大きく息を吸い込んだ。
「フォーチュンアーツと手を切ってください」
第204話は2025年07月06日06時00分更新予定です




