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第202話 二元交渉3

(信じられない……)

船井は目の前に対峙している石動に驚愕していた。


石動は船井が知らない情報をいくつも持っていた。


一つはイーストリースの突然の契約解除だ。

競合の縦山レンタリースとつながりがあるとは言え、エッジスフィアの動向を詳しく追っていないと簡単には得られない情報である。

石動は船井よりも先にさくら放送株を買い集めており、エッジスフィアの動きを監視していたと考えるのが妥当だろう。


そもそも、さくら放送とメトロ放送の親子関係がいびつであることに気づき、船井と北山は即座に動いていた。

北山と違い、船井はさくら放送株を水面下で買い進めており、この動きは外部に察知されないよう細心の注意を払っていた。

にもかかわらず、石動はこの動きを知っていた可能性がある。

そうでなければ、巨額の資金調達をしてまで、さくら放送株を買う理由はないだろう。


次にエッジスフィアに対する銀行融資の停止と、青山銀行の動きだ。

あまりにもタイミングよく青山銀行が融資を申し出てきたことの裏には石動が動いていると船井は睨んでいた。

その根拠はラジオ番組の収録時に石動がこれを匂わせていたことに起因する。

石動がこのような行動をとったのは、エッジスフィアの資金が尽き、メトロ放送に屈した場合、翔動が保有しているさくら放送株の価値が毀損することを防ぐ狙いがあると考えられる。


そして、先程知らされた尾幌の動きだ。

これまでのことを鑑みると、石動は船井よりも強力な情報網を持っているのは間違いないだろう。

したがって、尾幌が動いているという情報には一定の信憑性があると言わざるを得なかった。


(しかし……そこまでする理由は何だ?)

船井にとって解せないのは石動の一連の行動だ。

リース契約が切れたシステム移行を全面的に支援し、更には資金繰りの間接的な支援まで行っている可能性がある。


エッジスフィアは翔動とは資本関係や業務提携などは一切なく、船井と石動は個人的な関係性もない。

強いて言えば、高級すしを奢ったくらいであるが、それ以前から石動は行動していた。


持株の価値を維持するためとはいえ、何の後ろ盾もなく、創立して間もない企業である翔動が、ほぼ無関係のエッジスフィアに対してここまで全面的に支援する行動は異常だ。


生き馬の目を抜く世界に身をおいていた船井としては、石動の一連の行動に警戒を高めざるを得なかった。

特に、短期間で巨額な資金調達を実現していることが脅威であった。


石動の目的がメトロ放送の支配ではない以上、エッジスフィアが持っている何らかの資産を狙っているのではないかというのが船井の考えだ。


したがって、石動の目的をなんとしてでも確認しておく必要があると船井は強く感じていた。


「どうしてもわからないことがある。きみたちの目的は何だ?」

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