第201話 二元交渉2
「石動くんがその気なら、僕と手を組んでメトロ放送を支配することもできると思うけど?」
船井の主張はもっともだ。
エッジスフィアはさくら放送株を過半数近くまで買い集めている。
北山がメトロ放送に寝返らなかったら、とっくに支配できていただろう。
そして、今の景隆は北山を上回る株を手にしている。
会議室の空気はピンと張り詰めた。
ここから先の発言はオペレーションイージスの成否を左右する。
船井は景隆を取り込もうとすることが予想されるため、最初から切り札を切った。
「さくら放送株の過半数を掌握しても、メトロ放送を支配することはできません」
「なんだって?」
景隆は船井の表情を窺った。
彼にとって景隆の発言は想定外のようだ。
「創革インベストメントの尾幌さんが動いているという情報があります」
「尾幌さんが? さくら放送株はエッジスフィアとメトロ放送と翔動、そして北山さんのところで寡占状態だ。
今から参入してどうにかなる話ではないだろ?」
「いえ、尾幌さんが確保しようとしているのはメトロ放送株です」
船井は怪訝な表情を浮かべた。
散々報道されているように、メトロ放送はさくら放送の支配下にある。
そのさくら放送はメトロ放送株を死守するだろし、景隆がそれを理解していないはずはないと船井は思っているのだろう。
「尾幌さんは株券消費貸借契約を締結し、さくら放送が持つメトロ放送株を一定期間借り受けようとしています」
「なんだって!?……そんな手が……尾幌さんはホワイトナイトになろうとしているのか!?」
「そうです」
船井の表情に焦りが見え始めた。
仮に景隆の情報が正しいとすると、さくら放送を支配したとしてもメトロ放送株の議決権の過半数を取れなくなり、メトロ放送を支配することは不可能になる。
「僕のところにはそんな情報は入っていないな……」
景隆の発言の半分はブラフだった。
尾幌が動き始めたという情報を芦屋から得ているが、具体的な内容は柊の未来の経験談だ。
翔動が介入してしまった以上、尾幌が同じ行動をするとは限らない。
景隆はこのブラフが通るかどうかが勝負を決めると思っているため、力強く言った。
「ここから先は時間との戦いになります」
「む、たしかに……」
景隆は船井が情報の真偽を確認する前に押し切ることにした。
本当に尾幌が動き、メトロ放送側が優勢になれば、今後の交渉は圧倒的に不利になる。
このことは船井も痛いほど理解しているだろう。
「それに……この先も刈谷さんは船井さんを徹底的に潰しにくるでしょう」
「むむむ……今なら手を引く絶好のチャンスというわけか?」
「そうです、御社と弊社の持株数を合わせると過半数を超えています。
今はこれが刈谷さんにとって最大の脅威となっています。
尾幌さんが刈谷さんと接触し始めたら、この優位性が薄らぐことは間違いないでしょう」
景隆が一気に畳み掛けたことで、船井はこれ以上ないくらいに真剣な表情で考え込み、こう言った。
「どうしてもわからないことがある。きみたちの目的は何だ?」




