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第198話 桶狭間の戦い

「ほ、本当に入っている……」

景隆はインターネットバンキングの入出金明細に11桁の入金額が表示されていることを目の当たりにしながら、マウスを持つ手が震えていた。


「すぐ使うんだけどな」

柊は大量保有報告書の提出方法を調べていた。

柊によると将来は電子化されるようだが、現在は紙面で提出する必要があるようだ。


「これで、俺たちがさくら放送株を保有していることが明らかになるな」


景隆は持株を二社に分けることで、それぞれの保有株数を5%以下に押さえてきた。

白鳥銀行から振り込まれた100億円でさくら放送株を購入すれば、二社の持株比率は15%を超えることになり、大量保有報告書の提出が必要となる。

大量保有報告書は公開情報のため、翔動がさくら放送株を取得していることが知られることになる。

さくら放送株の株主構成は国内の投資家の注目の的となっていることから、目立つことは避けられないだろう。


「一日でケリをつけるぞ」

「マジで?」


「ここから先は俺たちがさくら放送株を大量保有していることが公になる。

そうなると、時間をかければかけるほど対策されてしまう可能性が高い」

「具体的には?」

「ユニケーションや会社のネガティブキャンペーンはありそうだな。

翔動(うち)がさくら放送株を大量保有したことで、世間の関心は高まるから、少しでも悪い印象を持たれるような報道をされたら一気に周知されるだろう」

「うげっ……本当にありそうだな……」


景隆は身震いした。

さくら放送株の筆頭株主である船井は世間の注目を大きく集めており、その中には批判や誹謗中傷も含まれている。

景隆としては翔動の従業員のためにも、世間の批判にさらされるような事態は避けたかった。


「それで、翔動(うち)が弱りきったところでさくら放送株を買い叩くってことか」

「そういうことだ。なので、大量保有報告書が出たタイミングですぐに交渉して決着させることが望ましい」

「たしかに、そう言われるとそれしか方法がなさそうだな」


柊は一気に勝負を決めにいくようだ。

景隆は桶狭間の戦いを前にした織田信長もこんな心境だったのではないかと思いを馳せるほど高揚した。


「それで、交渉相手は二つあるだろ? どうするんだ?」


フォーチュンアーツの影響力はエッジスフィアとメトロ放送の両方に及んでいる。

船井と刈谷の両方に交渉し、東郷の影響力を切り離す必要がある。


「俺とお前で同時に交渉する。

これは船井さんと刈谷さんを万が一にも組ませないためだ。

翔動がエッジスフィアとメトロ放送の共通の敵と認識された場合、この二社が一時的に協調して翔動を排除する動きになってもおかしくはない」

「最悪じゃねぇか……」


景隆はそう言いながらも、このような極めて重要な交渉事を任せられる柊の存在を頼もしく思った。

これ以上信頼できる人間はそうそういないだろう。


「それで、どっちがどっちを担当するんだ?」

「俺が刈谷さん、石動は船井さんだ」

「何となくそう思っていたけど、一応、理由を聞いておこう」


「船井さんとは特に友好的に交渉する必要がある。

その点で、接触回数が多い石動のほうが適任だ。

船井さんとはそれなりに親密度は高まったんじゃないか?」

「まぁ、そうだな……大分打ち解けたと思う。柊が刈谷さんを担当するのは?」

「俺も刈谷さんとは面識がないが、彼に関する情報は色々と集めている。

刈谷さんは俺たちの情報を一切持っていないだろうから、この情報格差が交渉を有利に作用するだろう」

「なるほどな」


どのような手段を使っているのか詳しくは知らされていないが、柊は刈谷の詳しい情報を入手しているようだ。

景隆は刈谷との面識がない反面、船井とは打ち解けてきているため、願ったりだった。


「それに、俺は逢妻さんと接点がある。刈谷さんにとって逢妻さんはアキレス腱なんだ」

「交渉カードはそろっているってことか」

「まぁ、万全ではないが……」


逢妻の持つさくら放送株は翔動に譲渡されるが、彼はメトロ放送株も大量保有している。

柊は逢妻とのコネクションも有効活用するつもりだろう。


「それで、作戦は――」

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