第196話 ホワイトナイト
「うっ……眩しっ……」
景隆は多数のカメラから放たれるフラッシュに目が眩みそうになった。
メトロ放送では記者会見が行われていた。
壇上には景隆、メトロ放送社長の刈谷、さくら放送社長の函南、そしてエッジスフィア社長の船井が並んでいた。
登壇者の席上にはキー局のマイクがずらりと並んでいた。
「カシャカシャカシャカシャカシャカシャ」
会場には多数の記者が詰めかけており、カメラのシャッター音や記者のざわめきが響き渡っていた。
「石動さんはホワイトナイトという認識でよろしいでしょうか?」
「さくら放送さんから見れば、そういった見方もあるかもしれません」
「カシャカシャカシャカシャカシャカシャ」
(あいまいに濁したつもりだけど、デカデカと「ホワイトナイト」って書かれるんだろうな……)
壇上では景隆だけ、記者会見は初体験だった。
今の様子が全国で生中継されていると思うと、胃が痛くなりそうだ。
「突如、翔動さんが大株主として現れたわけですが、さくら放送株を取得した時期を教えてください」
(うわっ……来ると思っていたけど、やっかいな質問だな……)
景隆は事前に用意していた回答で答えることにした。
「詳細は申し上げられませんが、エッジスフィアさんがTOBを発表される前から取得しておりました」
「北山さんよりも早い時期からでしょうか?」
「NZアセットマネジメントさんが取得されていた時期を把握していないため、分かりません」
「北山ファンドの大量保有報告書が出ていたと思いますが、それ以前ですか?」
「そうですね、その頃には買い始めていたと思います」
「具体的な時期を教えてください」
「それはお答えしかねます」
「カシャカシャカシャカシャカシャカシャ」
(ちょ……だから眩しいって……)
景隆は自分がボロを出す前に、刈谷や船井に質問をしてほしかったが、思いの外記者たちの関心を集めてしまっているようだった。
世間からすると、景隆は彗星のように現れたホワイトナイトだ。
しかも、まだ二十代の若者であることが、良くも悪くも目立つ要因となっているようだ。
「翔動さんの大量保有報告書が出たのはごく最近です。
それまでは水面下で動いていたということでしょうか?」
「はい、5%以上を取得しますと大量保有報告書の提出義務が生じますので、これを超えないようにしていました」
「なぜこっそりと買ったのでしょうか。何か後ろめたい事情などがあるのでしょうか?」
(めちゃくちゃ失礼な質問だな……)
「我々はここに同席されている企業様と違い、零細企業です。
今のように目立ってしまうと、身動きが取れなくなるためです」
景隆は少し皮肉を込めて回答したが、記者は何とも感じていないようだ。
(これくらいの鈍感力がないと、記者は務まらないか……)
「エッジスフィアと組んで、さくら放送やメトロ放送を乗っ取るという手段を取らなかったのはなぜですか?」
(ほらきた)
おそらくこの場の全員が聞きたいと思っていた質問であろう。
会場の視線が景隆に集中しているのが否が応でも分かってしまう。
(あぁっ、何で急にこんなことになったんだ……)
景隆はここに至る経緯が走馬灯のようによぎった。