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第191話 既得権益

「高畑さんが球団買収のことを根に持って、エッジスフィアとの契約を打ち切ったってことはないか?」


高畑はイーストリースの社長で、柊によると刈谷と深いつながりがあるという。


「状況やタイミングはそろっているけど、憶測の域を出ないな」

「そりゃそうか……」

「仮にそれが事実だったとしても『だから何だ?』って話だな」

「いゃ、俺が言いたいのは、今後俺たちが既得権益のビジネスに手を出したら同じ目に遭わないかってことだ」

「ふむ、そうだな……」


既得権益のビジネスに新規参入者が現れたら既存の事業者が快く思わないのは理解できた。

しかし、船井がされたように徹底的に潰されるのであれば、何らかの対策は必要だろう。


「既得権益に参入してうまくいった事例もある」

「……武佐さんか!」

「そうだ」


武佐がトップを務める創革グループは通信業界に新規参入して成功を収めている。

代表例としては大手通信事業者を買収し、国内によるブロードバンドサービスのシェアを大きく拡大した。


「近い将来、創革グループはWモバイルを買収して、携帯電話事業にも参入するんだ」

「うそん……」


Wモバイルはイギリスに本社を置く多国籍携帯電話事業会社だ。

国内では三番手に位置する。


「武佐さんがWモバイルを買ったときは抵抗されなかったのか?」

「特に揉めたという記憶はないな」

「なんで?」

「日本市場の業績が芳しくなかったんだよ」

「それであっさりと手放したのか」

「買収額は1.7兆円くらいだったかな……」

「そんなに! 俺が200億でヒィヒィ言っているのがバカらしくなってきたぞ」


景隆はいまだ資金調達にもがいており、状況は芳しくなかった。


「あとで振り返ると安い買い物だったと思う。

後に市杜(いちもり)が携帯電話事業に新規参入するんだが、巨額の設備投資が必要になり、赤字がすごいことになった」

「あの木ノ本さんが?」


市杜はeコマースをはじめとしたインターネット関連サービスを中心に展開する企業だ。

船井が新球団参入を表明したとき、木ノ本も名乗りを上げた。

船井は木ノ本に新球団の加盟申請で敗れた。


「武佐さんはタイミングよく買収できたことで、通信インフラを難なく手に入れられたってことだな」

「そうだ、うまく時流を捉えたと言っていいだろう」

「ほかに船井さんと武佐さんの成否を分けた違いはなんだ?」

「まずは戦略的アプローチの違いだな」

「詳しく」

「武佐さんは長期的な視点で、関係構築から進めていったんだ」

「対して船井さんは急進的なアプローチをとったということだな」

「そうだ、その場合対立構造が鮮明になって反発を招きやすい」

「そういえば、上村さんもそんなことを危惧していたな……」


景隆は船井のように事業を急拡大させたかった思いがあったが、船井をまねるだけではダメだということを思い知った。


「加えて資金力と政治力だ」

「うへぇ」


今の景隆には全く持ち合わせていないものだった。

柊は経験上さまざまなことを知っているからこそ、景隆のように『世界制覇』と安易に言ったりしなかったのだろう。

そして、柊は意外なことを口走った。


「ただ、船井さんにとって宇宙事業はありかもしれないな」

「それは反発する競争相手がいないからってことか?」

「まぁ、そうだな。それに、船井さんの性格にも合っていると思う」


放送局の買収の例を見ても、船井は大きく派手なことを好む傾向があった。

仮に小松菜の栽培で大儲けできると聞いたとしても、船井は手を出さないだろう。


「仮に成功したとして、どれくらいかかるんだろうな……」

「最短でも10年だな」

「事例があるのか!?」


景隆は浮足立った。

船井と意気投合したことにより、いつの間にか船井の宇宙事業を応援する気持ちがあることを自覚した。


「アメリカの民間企業が商業化に成功している」

「それでも10年かぁ……衛星インターネットが普及すれば通信速度のボトルネックを解消できると思ったんだけどなぁ」

「そんなことを考えていたのか……動画配信事業のことか?」

「そうなんだよ」


翔動はサイバーフュージョンと動画配信事業で業務提携している。

しかし、通信インフラが整っていなければ、どんなに動画配信側で設備投資しても無駄になってしまうだろう。


「通信インフラは喫緊の課題だな」

「今の俺たちが何とかできる話じゃないな……そうだ! 武佐さんなら何とかしてくれるんじゃないか?」

「そうだな、創革グループは光ファイバーサービスを始めたり、電気通信事業者を買収している」

「うーん、武佐さんと接点を作る方法はないかな……」


この先、武佐とは意外な形で邂逅することになるが、このときの景隆は知る由もなかった。

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