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第189話 宇宙事業

「日本は宇宙ビジネスをする上で地の利があるんだよ」

「地の利ですか?」


(サプライチェーンを構築しやすいという点でも『地の利』と言えるけど……)

景隆はカワハギを咀嚼しながら考えた。

日本でロケットを開発する場合、必要な技術や部品が調達しやすいという点で有利であると言えるだろう。


しかし、船井は『地の利』と言った。

ここは地理的な面で優位性があるという意味で受け取るべきだと考えた。


「地球の自転……太平洋ですか?」

船井はアワビを手に持ったまま、目を丸くして驚いていた。


「よくそこにたどり着いたね」

「確かロケットを東向きに打ち上げることで、地球の自転を利用してロケットが加速できるんでしたよね?」

「おどろいた。そのとおりだよ」


どうやら正解を引き当てたようだ。

景隆は船井に倣って澤の花を口にした。

船井の言うとおり、寿司によく合う日本酒だった。


ロケットの打ち上げには落下物のリスクがあるため、打ち上げ場所には広大な海域が必要となる。

地球の自転を利用する場合は東向きに打ち上げるが、日本列島の東側は太平洋が広がっている。


「欧州では作ったロケットを南米まで運んで打ち上げているんだよ」

「そうだったんですね……」

「ちなみに、赤道に近ければ軌道傾斜角が小さくなって、必要なエネルギーを減らすことができるんだ」


「はぁ、そこまで考えているんですね。

ブロードバンドサービスをやるというのは、コスト的にペイしやすいからですか?」

「その面もある。

全世界を見渡すと、ブロードバンドを享受できている人類はごくわずかだ。

世界中に光ファイバーを引くよりも、人工衛星を飛ばすほうが早いと思わないかい」

「たしかにそうですね」


仮に通信網を国内で構築する場合を考えても、建築物や環境が障害となりうる。

加えて規制や許可を得るための手続きなど、超えるべきハードルは山ほどある。


「それに、宇宙から得られるデータがどれだけ高く売れるかは未知数だが、通信費として徴収する分には収益が計算しやすい」

「事業計画が成り立ちやすく、資金調達がしやすくなるってことですね」

「そのとおりだ。この話がこんなに進むのは久しぶりだよ」


船井は上機嫌だった。


景隆は将来、本格的に動画配信事業を行いたいと考えている。

そのためには通信インフラが整備されていることが必須となるが、船井のような発想は出てこなかった。


柊は船井の構想を知っているかもしれないが、併せて船井が潰されてしまうことも知っている。

したがって、柊の中では船井の宇宙事業は頓挫すると結論づけているかもしれない。しかしこの先、船井潰しを阻止することができたら――


「石動くんには僕のような野望はないのかい?」


景隆は船井にここまで言われて、自分のことを言わないのはフェアじゃない気がした。

取り立てて隠す理由もなく、何より、この場で船井に自分が小さくまとまっていると思われたくなかった。


「半導体を作るつもりです」

「マジで!!?」


よほど想定外だったのか、船井は驚愕していた。


その後二人は、高級寿司の味を忘れてしまうほど熱く語り合った。

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