第181話 新たな可能性
「それは災難だったな」
白鳥ビルの会議室で、柊と新田は景隆の報告を聞いていた。
「エッジスフィアを助ける必要はないんじゃないの?」
景隆と奈多が邪険に扱われたと聞き、新田は憤慨していた。
「船井さんの態度に思うところがないわけではないが、放送局のトップの意向だけで特定の企業を潰していい道理もないんだよ」
「それはそうだけど……」
柊によると、メトロ放送の刈谷はエッジスフィアを潰すためにイーストリースだけでなく、金融機関にも働きかけて資金の流れを断ってしまうようだ。
事業を行ううえで必要な人・モノ・金のうち、モノと金が止まってしまえばいかに船井といえどもひとたまりもないだろう。
景隆は改めて刈谷の持つ権力の巨大さに戦慄した。
それと同時に、メディアが持っている影響力が強すぎることに大きな懸念を感じた。
「エッジスフィアの融資が止まった場合、代わりの銀行に当てはあるのか?」
「そこは芦屋さんが動いてくれている。
差し当たりアストラルテレコムと取引のある金融機関が候補だ。
いざとなったら、白鳥銀行や四十五銀行にも相談してみるよ」
景隆は芦屋にエッジスフィアの資金繰り状況の調査と、エッジスフィアへの融資が可能な金融機関の選定を任せていた。
芦屋には柊の未来の知識は伏せながら伝えていたが、彼女は景隆の意図をくみ取って動いてくれている。
「エッジスフィアのシステム構成はさっぱりわからないんだが、それでも何とかなりそうか?」
景隆はエッジスフィアがリースしているサーバーの移行プランを新田に任せていた。
船井がもう少し前向きになってくれれば、システム構成をヒアリングする機会があったかもしれないが、あの場ではどうしようもなかった。
「正直、確認してみないとわからないけど、よほど特殊なシステムでなければ何とかするわよ」
「さすが過ぎる」
景隆は改めて新田の存在に心強さを感じた。
翔動は規模や組織力でエッジスフィアに到底かなわないが、人材の質であれば勝っている自信があった。
「とは言っても柊の知識がある前提だけどね、何とかできるんでしょ?」
「まぁ、やるしかないだろ」
柊には未来の知見と経験があるため、景隆と新田は完全にこれをあてにしていた。
「鷺沼さんが手伝ってくれそうなら、本当になんとかなりそうなんだけどな」
プログラミングに関しては世界でもトップクラスの新田だが、ことインフラにおいては鷺沼のほうが知識も経験もある。
そして、柊は景隆以上に鷺沼のことを知っている。
「それが興味津々だったぞ」
「え? まさかエッジスフィアのことを話したの?」
「んなわけないだろ、縦山レンタリースの関係者を紹介してもらおうと思ったら、色々勘付いたみたいなんだよ」
「相変わらずだな……」
柊は鷺沼の勘の良さを十分に知っているようだ。
「エッジスフィアを助けちゃったら、そのまま買収がうまくいっちゃうんじゃないの?」
新田は「M&Aのことはさっぱりわからないけど」と付け加えながら言った。
「ところがそうでもないんだ。エッジスフィアはどうやってもメトロ放送を掌握できない」
「なんで? さくら放送の新株予約権の発行は止められるんだろ? 船井さんの資金力が続けばいけるんじゃないのか?」
「さくら放送なら買収できるかもな」
「ま、まさか……」
景隆はある可能性に思い至った。