第180話 ぞんざいな存在
「ふーん、なるほど……」
さくら放送の会議室で、船井はあからさまに興味がなさそうに言い放った。
景隆は縦山レンタリース社長の奈多を連れて、さくら放送に来ていた。
さくら放送では先ほどまで長町がパーソナリティを務めるラジオ番組『みうトーク』の収録が行われていた。
みうトークのゲストに渦中の人物である船井を呼んだことで、番組は大いに盛り上がり、大きな話題を呼んでいた。
景隆は収録の様子をスタジオで見学していたが、船井の話は引き込まれるほどだった。
船井は世間で言われているような乗っ取り屋ではなく、真剣に放送局の収益とメディアの将来について熱く語っていた。
この番組に船井を呼んだのは、刈谷によるエッジスフィア潰しを防ぐための施策の一つで、これは柊と橘によって画策された。
メトロ放送はエッジスフィアと船井に対してネガティブキャンペーンを展開することが分かっていたため、船井の言い分を伝えておくことが狙いだった。
その点において、今回の収録は成功といえるだろう。
船井をさくら放送の番組に出演させることは、局内から反発されることが火を見るより明らかであった。
しかし、番組における長町の影響力は絶大であり、彼女の強い意向でこれが実現したようだ。
後で聞いたところ、柊と長町の間に何らかの取引があったようだ。
超多忙の船井が今景隆に時間を割いているのは、長町の番組で船井に発言の場を与えたことへの対価のようなものだった。
その景隆は、船井に縦山レンタリースを紹介するためにこの場に来ていた。
縦山レンタリースからは社長の奈多が自ら出てきたことに景隆は驚いた。
奈多はエッジスフィアが契約しているイーストリースよりも良い条件を提示していたが、船井の反応は冷めていた。
景隆は奈多に対して申し訳なく感じていた。
「奈多さんのお話は理解しました。
今のところイーストリースさんとは良い付き合いをさせていただいているので、追加の案件があれば検討させていただきたいと思います」
「承知いたしました。ぜひともご検討ください」
明らかに社交辞令であるが、奈多はそれをわかっていながらも丁寧に対応していた。
船井は大企業のトップであるが、奈多より一回りも年下だ。
その奈多に対してぞんざいな態度を取っている船井に景隆は多少の憤りを覚えた。
今の船井は本業のインターネット事業よりも放送局の買収に関心が移っているように見えた。
(俺、本当にこの人を助けることになるの……?)
近い将来イーストリースに契約を切られることを船井は知らない。
景隆は柊が持っている未来の情報をこの場で打ち明けることはできない状況だ。
「奈多さんの話はわかったけど、石動くんは何か面白い話を持ってきているんじゃないの?」
「なくはないですが、今日は縦山レンタリースさんのお話を聞いていただくことが目的なので」
「ふーん……」
船井はつまらないものを見るような目で景隆に言い放った。
以前にビジネスパートナーとなるようなオファーを受けた時とは大違いだった。 ※1
景隆はさくら放送株に関する自分の動きを悟られないようにするため、うつけを演じておく必要がある。
今は何を言われてもこらえるしかない。
「あ、一つありました。つなぎ融資が必要な場合は金融機関を紹介できると思います」
「お、それはありがたいね。
では僕はこの後のスケジュールが詰まっているから、失礼させてもらうよ
長町さんの番組に出られたことは感謝している。柊くんによろしく」
そう言って船井は早々と去っていった。
※1 75話 https://ncode.syosetu.com/n7115kp/75/