第179話 商機
「エンプロビジョンはよくやってくれているよ」
デルタファイブの会議室で、似鳥は満足そうに言った。
景隆にとっては雲の上の人物であった似鳥は、今では週に一度くらい直接会って話している。
エンプロビジョンに採用する人員は量より質を重視しているため、出向先・派遣先企業では重要な仕事を任されることがある。
そして、その企業に新規の案件があった場合、いち早く情報を掴むことができた。
景隆と似鳥はこれを商機と見て、エンプロビジョンの社員が顧客にデルタファイブの製品を紹介したらインセンティブを付けるようにした。
これがうまくハマり、デルタファイブは新規顧客の開拓に成功している。
似鳥の発言にはこのような経緯があった。
「ありがとうございます」
「それで、新しい儲け話があるのか?」
「そうですね、かなり不確定な情報なのですが」
「構わないぞ、今回は何やらデカそうな案件なんじゃないか?」
(げっ、俺ってそんなにわかりやすいかな……)
景隆は経営者としての課題を突きつけられた気がした。
勘が良すぎる鷺沼は例外としても、そう簡単に自分の考えが読まれているようでは駆け引きができなくなる。
「エッジスフィアのシステムの大半がイーストリースによって調達されていることをご存知でしょうか?」
「今話題の会社だな。それは知らなかった」
イーストリースは業界最大手のリース事業者だ。
自動車、航空機、医療機器、建設機械など、多岐にわたる商品を提供している。
「近々、そのイーストリースとの契約が切られるという情報があります」
「本当か!?」
「ですから、不確定です」
「そ、そうだったな……」
景隆が持っている情報は柊の未来の知識によるものだ。
メトロ放送社長の刈谷とイーストリース社長の高畑は強いつながりがあり、刈谷は船井を追い詰めるために高畑に働きかける動きがあるようだ。
しかし、柊によると、この世界線に干渉したことで、未来の不確実性が高くなっているとのことだった。
「とはいえ、事実なら見逃せない案件だ」
似鳥は景隆の意図をすぐに汲み取ったようだ。
エッジスフィアからイーストリースが撤退するのであれば、デルタファイブの製品を売り込むチャンスである。
「リースってことは、縦山レンタリースを使うってことだな」
「ええ、似鳥さんならコネクションがあるとお聞きしました」
仮に縦山レンタリースからデルタファイブの製品がリースされる場合、在庫を追加するためにデルタファイブに追加受注が期待できる。
「しかし、移行作業をやるとなると大変だぞ」
「それについてはいくつかの手段を考えています」
「抜け目ないな」
似鳥は逡巡した後、こう言った。
「それでは奈多を紹介する。その前にエッジスフィアとのコネクションはあるのか?」
「ええ、近々船井さんと面会できる予定です」
「お前、すごいな……」
似鳥は驚いた表情で景隆を見た。
船井が世間を騒がせていることは似鳥も知っているだろう。
実際に船井と会うきっかけを作ってくれたのは柊だ。
「それで、奈多さんというのは?」
「縦山レンタリースの社長だ。私の元同期だよ」
「ええっ!?」