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第174話 監視役?

「石動さん、候補となる金融機関のリストを更新しました。

ご指示いただいたように、外資系の金融機関を除外しています」

白鳥ビルの会議室で、芦屋は恭しく書類を景隆に差し出した。


芦屋はビシッとしたスーツに身を包み、短めに切りそろえた髪と端正な顔を引き立てるメイクによって、知的な印象を与えていた。

崩すことのない表情と細めの目からは、彼女が何を考えているか一切読み取れず、ミステリアスな雰囲気を漂わせていた。


景隆と芦屋の二人がいる白鳥ビルの会議室は、さくら放送株を取得するために設立したSPCの拠点となっている。

アストラルテレコムの女帝と言われる姫路は、自分の秘書である芦屋をこのSPCに出向させていた。


芦屋とは一緒に仕事を始めたばかりだが、景隆は芦屋の優秀さに驚嘆していた。

アストラルテレコム内で姫路が成り上がることができたのは、芦屋の存在が大きいのではないかと景隆は想像した。


姫路の片腕とも言えそうな芦屋を送り出してきたのはひとえに、さくら放送株を確実に高値で売却し、利益を確保するためだろうと思われた。


(監視の意味合いもあるんだろうな……)

姫路はSPCに対して追加の出資をしていた。

もしこの資金が焦げ付けば姫路の責任になるため、失敗は許されないのだろう。


「ありがとうございます。うわっ、さすがですね……」

「恐れ入ります」


芦屋が差し出したリストには国内では名だたる銀行や投資ファンドなどが含まれていた。

景隆はSPCに出資する可能性がありそうな金融機関の調査を芦屋に依頼していた。

芦屋は金融機関の勤務経験があり、姫路はその経験を買って秘書に抜擢したと思われる。


国内の金融機関を候補としたのは、船井側の資金調達先が外資系であるためだった。

景隆は船井や北山に気づかれないよう、秘密裏に動く必要があった。


「やはり、国内の金融機関は厳しいですね」


エンプロビジョンのメインバンクである四十五銀行からはあっさりと資金調達ができたものの、ほかの金融機関との交渉は難航していた。

加えて、外資系金融機関に比べると、一件あたりの融資規模が小さいことも課題となっている。


「国内金融機関は、リスクに対して慎重な姿勢になります」

「それに、火中の栗を拾いたくないってのはありそうですね」

「そうですね。両社は明確な敵対関係と言えるでしょう」


メトロ放送はさくら放送の株式を公開買付け(TOB)する計画を発表した。

このTOBはエッジスフィアの影響力を排除し、メトロ放送の支配権を強化するものだ。

メトロ放送の社長、刈谷はさくら放送株の50%を取得し、筆頭株主となることを目指している。


そして、今や船井は時の人だ。

さくら放送やメトロ放送の経営陣に対して厳しい発言を繰り返している。

刈谷がこれに反論することでメディアはこれを囃し立て、世間は大いに盛り上がっている。

この厳しい対立構造に割って入るほどリスクが取れる国内の金融機関はほとんどいないだろう。


「芦屋さんが来てくれて本当に助かりました」

これは景隆の本音だった。

姫路の思惑がどうであれ、金融機関の勤務経験がある優秀な人材がいることは非常に心強かった。


「これも仕事ですし……それに、なかなか得がたい経験だと思っています」

自分を出さない芦屋が感想めいたことを言ったことに、景隆は少し驚くとともに嬉しくもあった。


「外部から見ると、姫路さんは高槻さんを動かしているイメージがあったのですが」

「ええ、その認識で合っていると思います。

高槻は広報なので、常に表に出てくるのは彼になり、私は裏方です」


彼女の話が本当なら、実務のほとんどは芦屋が動かしている可能性もありそうだ。

将棋でいえば飛車のような存在といえるだろう。


「そんな大切な人材をお借りして、大丈夫なんですかね……」

姫路には過去に色々と貢献している自覚はあったので、ある程度の見返りを期待していなかったと言えばウソになる。

その姫路は最強の手駒ともいえる芦屋を惜しげもなく差し出したのだ。


「私の代わりはいくらでもいますから」

(ぜっっっっ対にウソだ!)

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