第168話 国民的美少女
「あれ? 石動くん?」
失意の中で白鳥銀行本店を出ようとした景隆は、思わぬ人物と遭遇した。
「白鳥社長」
白鳥の父詮人は少年を連れていた。
(あれ、どっかで見たような……それにしても、ものすごいイケメンだな……)
景隆は目の前の美少年と会ったような気がしたが、思い出すことができなかった。
「ここにいるということはもしかして――」
「ええ、先程まで白鳥頭取とお話をさせていただきました」
基人との交渉にあたって、景隆と柊は事前に詮人に相談をしていた。
詮人は兄である基人に対して、どのようにアプローチするのが最善か、助言を授けていた。
「その表情だとうまくいかなかったみたいだね」
「申し訳ありません、せっかくのアドバイスをいただいたのに、私の力不足でした」
詮人のアドバイスは的確で、交渉は極めて順調だった。
それゆえに結果が出せなかった己の無力さが許せなかった。
「ここじゃなんだし、ちょっと休憩しないか?」
***
(うっわー、すごい眺めだな……)
白鳥不動産の社長室は超高層ビルの最上階に位置し、景隆は度肝を抜かれた。
白鳥銀行の頭取室は重厚で歴史を感じさせる雰囲気だったのに対し、白鳥不動産の社長室は近代的な設備を備えており、最新のオフィス空間といった印象を受けた。
「仰々しいかもしれないが、内々の話をするときにここが都合がよくてね」
詮人は自宅のリビングにいるかのように、悠然と座っていた。
「失礼いたします」
ノックの音とともに、一人の少女が入ってきた。
(ちょ……なっ……はぇ?)
景隆はあまりのことに悲鳴が出そうになり、それを必死に堪えた。
それほどまでに目の前の少女は美しかった。
「石動様。先ほどはご挨拶もせずに失礼いたしました。
改めまして、綾華と申します。以後、お見知りおきを」
綾華と名乗った少女はそう言い、深々とお辞儀をした。
日本人形のような美しい黒髪が、優雅に流れ落ちていく。
その一連の所作が日本舞踊のように美しかった。
「こちらこそ、よろしくお願いします。
あの……様はやめていただけると助かります」
この世のものとは思えないほどの美少女を前にして、景隆は基人と面会したときより緊張してしまった。
「承知いたしました。それでは『石動さん』でいかがでしょうか」
「はい、それでお願いします……あれ? 私のことを?」
景隆は動揺のあまり、自分が名乗っていないことを思い出した。
「ええ、石動さんのことは兄から伺っております」
「えええっ!?」