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第164話 インサイダー

「あぁ、インサイダー取引だ」

「マジか……北山さんは捕まったのか?」

「司法の判断では、執行猶予が付いた懲役刑と罰金、そして追徴金が科された」


景隆は身震いした。

これまでの会社員生活では無縁である出来事だが、今となっては当事者となる。


「何が問題だったんだ?」

「法廷での主な争点は、北山さんが知っていた情報が『公開買付け等を行うことについての決定』に該当するかどうかだ」


「なるほど、わからん」

「問題となったのは、エッジスフィアがさくら放送株の大量取得の方針を聞いた時点で、メトロ放送がTOBを行う決定をしていたかどうかだ」


柊によると、エッジスフィアがさくら放送株を大量取得したことを受け、メトロ放送はさくら放送株のTOBを発表した。


「北山さんはメトロ放送が確実にTOBを発表することを知っているわけじゃないよな?」

「まさにそこが争点となった。

裁判所はTOB実現の可能性を知っていれば、決定した事実を知らなくてもインサイダー取引に該当するという判断をくだしたんだ」

「それって、微妙じゃないか?」

「あぁ、()()は法的解釈や規制のあり方など、大きな議論が巻き起こった」


景隆は法制度の曖昧さに疑念を持った。


「これって、少しでもグレーなところがあれば、いくらでも黒にできるってことだよな」

「そうなるな」

「怖えぇ」


景隆は改めて戦慄した。

もし、景隆が船井からさくら放送株を取得すると聞かされていた場合、同様に罪に問われる可能性があったということだ。


「ちょ、ちょっと待て! 柊はほぼ確定の情報を握っているから、インサイダーじゃないか?」

「概念的にはそうなるな」


「どうゆうことだってばよ」

「今の法制度では未来人であることが、インサイダーに該当するという定義がないはずだ」

「そりゃそうか……」


景隆は改めて柊の存在がチートだと思った。


「柊が未来人であることがバレてしまうと、色んな人から狙われることになるな……」

「わかっていると思うが、絶対に口外するなよ」


もし、悪意のある者が柊のことを知ってしまった場合、情報を得るために脅される可能性は十分にある。

脅されるのはマシなほうで、最悪の場合は都合の悪い存在として消されてしまうだろう。

景隆の目の前にいる人物は、世の中にとってそれほどの危険性を孕んでいるのだ。


「現行法上、俺たちの行動は大丈夫なのか?」

「インサイダー情報を持っているのは、さくら放送とメトロ放送の経営陣、そして船井さん――」

「それと、微妙だけど北山さんか……柊の言い分だと、彼らから情報を得ていないから、俺たちの行動は問題ないってことか」


「俺は刈谷社長の動きを探っているが、彼からはさくら放送株の取得についての情報は一切手に入れていない」

「なるほど、意識的にそうしていたのか」


「あれ? 俺は姫路さんや上村さんにTOBの可能性や船井さんが動くかもって言っちゃったぞ……やばくないか?」

「直接本人から聞いたわけじゃないから、単なる憶測だ」

「俺は判断材料を与えただけってことか」

「そうなるな」


「ちょっと待て。

姫路さんは船井さんの動きを追っているが、情報を手に入れてしまったらインサイダーになっちゃうんじゃないか?」

「姫路さんはそこまでバカじゃない。直接会ったりすることはないだろうし、万が一決定的な情報を手に入れたら、その時点で手を引くだろう」


「上村さんは、船井さんから提案があったようだが?」

「Web Tech Expoの前の話だろ? そのときはまだ決定事項じゃないだろうし、何か決定的な情報を握っているなら石動の提案も断っているはずだ」


「もし、上村さんがそれを知っていて俺たちに出資していたら?」

「それは上村さんの責任だな」

「俺がやっていることは結構、綱渡りだったんだな……」


「これからの行動にも気をつけろよ」

「具体的には?」

「エッジスフィアがさくら放送株を大量取得するまで、インサイダー情報を持っている人間には近づかないことだな」


(柊は意地悪じゃなく、あえて俺に情報を共有しなかったのか……)

景隆はここにきて、北山ファンドの動きを知らされていなかった理由を知ったことになった。

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