第163話 アクティビスト
「うわっ! マジか……」
白鳥ビルの会議室で、景隆は思わず悲鳴を上げそうになった。
「北山ファンドか」
柊は景隆と同じ情報を確認していた。
さくら放送株の大量保有報告書だ。
突如として、さくら放送の株主名簿にNZアセットマネジメント――通称、北山ファンドの名前が加わっていた。
その保有比率は10%にものぼっている。
「知っていたなら先に教えてくれよ……」
景隆は柊に恨み言を言った。
「言ったところで、何かできるのか?」
「うっ……」
景隆は返す言葉がなかった。
さくら放送の株を買い集めるという意味で北山は競争相手とも言えるが、巨額の資金調達力を持つ北山が象だとするなら、景隆は蟻のような存在だ。
「いゃ、蟻……じゃなくて、ネズミくらいの存在にはなっているか」
「お前はよくやっているよ。その年齢でこれだけの資金調達をできた日本人は数えるほどしかいないんじゃないか?」
柊は景隆の脳内を勝手に補完して答えた。
世界中を探しても、これほど意思疎通が早い二人組はいないだろう。
「これってあの『物言う株主』の北山さんだよな?」
「あぁ、そうだ」
北山はアクティビストとして知られ、出資した企業には積極的に経営に介入することで、経済界では有名になった人物だ。
海外と比較して日本の株主は大人しく、北山の言動は良くも悪くも注目された。
過去の事例では、アパレル企業が巨額な内部留保資金を保有しており、北山は株主としてこの過剰な資金の活用を強く求めた。
具体的には配当の増額や、自己株式の取得である。
これを行うことで、株価が上昇し、株主にとっての利益となる。
北山は株主総会での議決権を行使し、自分の提案を通すつもりだったが、企業側は銀行や取引先の持ち合い株主に働きかけて議決権を確保し、徹底的に抵抗した。
結果的に北山の提案は否決されたが、このことはメディアに大きく取り上げられた。
「なんというか、ザ・日本企業って感じだな」
景隆はこのアパレル企業の一連の対応を振り返って言った。
「まぁな。ただ、いつまでもそのままではいられないんだよ」
「まさに、これからメトロ放送やさくら放送で起こることだよな」
景隆は日本企業の危機感のなさに危機感を覚えた。
柊が言っている金融危機が到来したときに、それを乗り切れることができるのだろうかと考えさせられた。
「ちょ、ちょっと待て……もしかして船井さんと手を組むのは……?」
「もしかしなくてもそのとおりだ」
「うそん……」
景隆は強大な相手が突然現れたことで、戦慄した。
ゲーム開始直後にラスボス直下の四天王に遭遇した気分だった。
「つまり、メトロ放送とさくら放送のねじれ現象に気づいて先に動いたのは、船井さんじゃなくて」
「あぁ、北山さんだ」
「うわぁ……」
景隆は北山の投資家としての手腕に戦慄した。
それと同時に、ある疑問が生じた。
「あれ、これってもしかして……?」