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第161話 SPC

「ふむ、それが本当なら悪くない話ね」

アストラルテレコム本社の会議室で姫路は景隆の話を咀嚼して言った。


この会議室は重役のみが利用する会議室で、荘厳な雰囲気が漂っている。

景隆はロシアの女帝エカチェリーナ二世に謁見した大黒屋光太夫のような気分だった。


景隆はさくら放送の浮動株比率が近々50%を超えること、これを買い占める動きが出ていることを姫路に伝えていた。

一介の会社員であった頃にはこうして一対一で面会することなどあり得なかったが、これが容易に実現できる間柄になろうとは、夢にも思っていなかった。


「石動くんの情報が確かなら、メトロ放送がTOBする可能性は高いわね」

「はい、そのとおりです」


TOB(Take Over Bid)は株式公開買付けとも呼ばれ、株式会社の株式を、買付け期間・買取り株数・価格を公告し、不特定多数の株主から株式市場外で買い集める制度のことだ。

TOBが発表されると、ほとんどの場合では市場で取引されている価格よりも上回る価格が提示される。


景隆はメトロ放送がさくら放送株をTOBにより買い取り、親子関係のねじれを解消する可能性を示唆した。

したがって、TOBが発表される前にさくら放送株を買うことで、利益を得ることになる。


「それで、あなたのSPCを経由して株を買うという提案ね……どうしてアストラルテレコム(うち)が直接さくら放送の株を買うと思わなかったのかしら?」


姫路は試すような表情で景隆を見つめながら言った。

柊によると、このように姫路は答えを知りながらも、人を試すことがあるらしい。


景隆はさくら放送株の運用益の一部を、SPCの手数料とする提案をしていた。

姫路の言い分はもっともで、アストラルテレコムが直接株を買うことで、SPCに手数料を支払う必要がなくなる。


「アストラルテレコムさんが放送局の株を大量に取得すると、色々と軋轢を生む結果になると思われます」

「あら?」


「携帯電話という社会インフラを握る企業が、放送局という情報発信力の強いメディアの経営に深く関わることは、言論の自由や報道の公平性に対する懸念を引き起こす可能性があります。

世間は特定の企業がメディアを支配し、自社の都合の良い情報だけを流すのではないかという警戒感を抱くかもしれません」

「うまいこと言うわね。

でも、アストラルテレコム(うち)もメトロ放送も民間企業よ。

現にスポンサーもしているし、営利目的は仕方ないと思わないかしら?」


景隆はSPCを経由することで、匿名で出資できる利点を強調した。

しかし、姫路は景隆の説明に納得しきっていないのか、続きを言うように促した。


「NNTグループは元は公社であり、現在も政府が出資しています。

営利追求だけでなく、公共の利益に貢献する役割を担っていたというイメージが一般的にあります。

そのような背景を持つ企業が強い影響力を持つ放送局の経営に深く関わることは、公共性や中立性への期待との矛盾を生じさせ、批判を招きやすくなります。

世間は、元公社系の企業がメディアを支配することで、特定の政治的意向や企業利益が優先されるのではないかという懸念をより強く抱く可能性が出るのではないでしょうか」

「ふむ、痛いところをついてきたわね」


姫路は驚いた表情を交えながら感心していた。

姫路に対してここまで言えるのはごくわずかだろう。


「まるで柊くんと話しているようだわ」

(ぎくっ)


「ちなみに、あなたたちは動こうとしている人物を知っているんでしょ?」

「はい、エッジスフィアの船井さんが間もなく動くと思います」


景隆は事前に柊と、船井の行動をある程度開示しても問題ないことで合意していた。


「その話が本当なら早く決断する必要があるわね」

「おっしゃるとおりです」


TOBが発表される――もしくはその噂が出るだけで株価は高騰する。

決断が遅くなれば、その分取れる利益が少なくなることを姫路は理解していた。


芦屋(あしや)!」

「はっ」

(ええっ! いつの間に……)


姫路の傍らには芦屋と呼ばれた美しい女性が控えていた。

おそらく姫路が呼んだ秘書であろう。


「エッジスフィアの動きを追って。それと、資金を用意して頂戴」

「承知いたしました」

「石動くん、とりあえずあなたに10億を預けるわ」

「ええええええっ!?」

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