第158話 反撃の狼煙
「はあああっ!? つまり、東郷は自分の性欲を満たすためにメディアを支配しようとしているの?」
(こわっ! ……超こわっ!)
般若のような新田の表情に景隆は震え上がった。
柊は東郷が所属タレントに性加害を行っていること、そして、霧島プロダクションに移籍した少女をその対象として狙っていることを説明していた。
「俺たちはこれを阻止するつもりだ」
「あったり前よ、こんなこと絶対に許せないわ!」
景隆は新田の反応に驚いた。
彼女は人間関係にもっとドライな態度を取ると思っていたためだ。
(これは、柊のことを明かしたら大変なことになるな……)
「柊さんの経験では、船井社長はさくら放送の買収に成功したのですか?」
「一歩手前まで行きましたが、最終的には失敗しています」
景隆は柊の答えをある程度予想できていた。
船井がメディアをも支配するほどの驚異的な存在であれば、柊がそれを放置するとは思えなかったためだ。
「なら、放っておいてもいいってことか?」
「いゃ、さくら放送とメトロ放送はかなりギリギリのところまで追い込まれた。
今回は東郷の助けもあるから、このままだと成功する可能性が高い」
「ってことは、俺たちが阻止する必要があるってことだな」
「そうだ」
「うしっ!」「ふむ」「当然ね」
図らずも柊が一人の少女を守ろうとしたことで、大事件に巻き込まれる形になった。
しかし、景隆は船井という大物を相手に、どこまで自分が太刀打ちできるのかを挑んでみたいと思うようになってきた。
「ちなみに、東郷のことがなければ俺はこれを静観するつもりだった」
「それはキリプロに影響が出ないからってこと?」
「それもあるが、メトロ放送の刈谷さんは、あの手この手で船井さん――エッジスフィアを徹底的に潰したんだ」
「乗っ取ろうとした相手に対する報復か」
「そうだろうな。この事件があったからか、船井さんほどの起業家は日本から生まれることはなくなった」
「起業家が萎縮したってことか?」
「俺はそう見ている」
「結局は刈谷さんの影響力は船井さん以上ってことか……『出る杭は打たれる』という日本特有の風潮があるからなぁ……」
ここにきて景隆は柊が船井に抱いていた思いを知ることになった。
今後、翔動が世界を取りにいくに当たって、船井の行く末は他人事ではないであろう。
「俺は船井さんが東郷と手を切ることができれば、船井さんも救いたいと思っている」
「キリプロに害が及ばないければいいってこと?」
「そうだ」
「霧島プロダクションとしては、東郷によるメディア支配が回避できれば構いません」
「俺も特に異議はないな……新田は?」
「私も、エッジスフィアを潰すことは業界全体にとってよくないと思う」
「じゃ、決まりだな」
景隆は会議室のホワイトボードに目的を書き出した。
1. エッジスフィアによるさくら放送(メトロ放送)の買収を阻止する
2. エッジスフィアとフォーチュンアーツの資本提携を解消させる
3. 刈谷によるエッジスフィア潰しを阻止する
「まぁ、そんなところだな」
柊は景隆が意図を汲んでいることに満足しているようだ。
「柊のことだから、対抗策は考えてあるんだろ?」
「あぁ、もちろんだ」
かくして、翔動設立以来、最大の作戦が始まった。