第157話 それぞれの狙い
「おそらく、東郷社長の独断でしょう。船井社長は多忙ですし、完全に同期をとった行動をできないと思われます」
橘は東郷をよく知っているような口ぶりだった。
そして、柊は橘と東郷の関係を知っているように見えた。
「そもそも船井さんはなんでテレビ局を欲しがったんだ?」
エッジスフィアはインターネット事業者だ。
ある意味、テレビ局とは競合関係にあるといっていいだろう。
「メディア業界における存在感を高めて、事業の多角化を狙ったと言われている」
翔太は当時を思い出すように言ったが、本心は別のところにあるように思えた。
「で、実際は?」
「承認欲求や支配欲のようなものがあるかもしれない。
今の船井さんは若くて巨額の資本を自由にできるから、ある種の全能感を感じていてもおかしくはない」
船井は『業界の寵児』としてもてはやされている。
IT業界で言えば、上村や業界の重鎮である武佐も著名な起業家であるが、船井は彼らよりも一回りも二周りも若く、メディアへの露出が高かった。
特に、船井がプロ野球球団の買収に名乗りを上げたときは、メディアがこぞって船井を取り上げた。
景隆はインターネットニュースで船井の存在を知っていたが、まさか自分が船井と対面したり、ビジネスで競合するなど、このときは夢にも思っていなかった。
仮に、船井がメトロ放送を手中に収めることができた場合、メディア支配を強めることになり、翔動が大きくなったときの阻害要因となり得ると景隆は考えた。
「東郷の狙いは?」
景隆は船井のことを一旦頭から追い出し、東郷の狙いについて尋ねた。
「テレビ局を船井さん経由で掌握し、フォーチュンアーツのタレントの露出を増やしつつ、霧島プロダクションを削ぎ落とすつもりだろうな」
「東郷は今でもテレビ局に対して影響力はあるんじゃないの?」
東郷は自身が行っている性加害の行為が公然の秘密となっているにもかかわらず、メディアではそれが一切報道されていない。
それほどの影響力を持っているならば、十分であろうと思われた。
「議決権で多数をとることで、その株主は自分が決めた役員を送り込めるんだよ」
「要するに、船井と東郷が手を組んでテレビ局を意のままにするってこと?」
「大体合っている」
「前者はわかるけど、後者はわからないわ。なぜ東郷はそこまでキリプロを敵視するの?」
「「「………」」」
新田以外の全員がその答えを知っていたが、話しにくい内容であるため、会議室は静寂に包まれた。
柊は橘に目線を送り、橘はしっかりと頷いた。
「実は――」
新田は激怒した。




