第155話 熱愛報道
「何で柊はエッジスフィアがさくら放送を狙っていることがわかるの?」
「この先の未来で起こることなんだよ」
「あぁ、なるほど」
景隆は、この場の全員が柊を未来人だと認識していることが今後大きなアドバンテージになりそうだと感じた。
「ただ、仮に船井さんが今動くとすると、俺が知っている時期より早い。
しかも、フォーチュンアーツとの資本提携は俺のときは経験していない出来事だ」
景隆はフォーチュンアーツとの資本提携により、船井が動き始めるタイミングが早まるという確信があった。
もし、自分が船井の立場であればすぐに動くであろう。
柊が雫石という少女の人生に介入したことで東郷が動き出し、船井の行動も早まるだろうと景隆は予想した。
そして、景隆は柊もその結論に至っていると確信した。
「資本提携をきっかけに、さくら放送の買収が早まるということでしょうか?」
これまで沈黙を保っていた橘が口を開いた。
「そうですね。これは想像ですが、フォーチュンアーツから大きな資本が入ったか――」
「東郷の口利きで資金調達の目途が立ったってことですね」
橘は柊の意図を察して結論を述べた。
(霧島さんが前線にいないことも関係していそうだな……)
「その東郷社長はフォーチュンアーツと組んで何をしたいんだ?」
「おそらく、メディアを手中に収めて――」
景隆の疑問に柊が答える前に、橘の携帯電話に入った一報でその一端が明らかになった。
「今、メトロ放送のワイドショー番組で、神代と狭山の熱愛報道があったとの報告がありました」
***
「ひどいな……」
録画された問題の番組を観ながら、景隆は不快感を隠せなかった。
『こ、こわっ……』
柊を窺った景隆は恐ろしさのあまり、すくみあがった。
番組では、神代と狭山が親密な関係にあるように見える角度で撮られた写真が映し出されていた。
これを元に、ワイドショー番組の司会やコメンテーターがしたり顔で神代の熱愛報道を嬉々として語っていた。
神代は狭山というフォーチュンアーツのタレントと話しただけであり、番組で言われている内容は事実無根であった。
状況を聞くところによると、フォーチュンアーツの仕込みであったようだ。
景隆は、他人のプライバシーをみだりに暴いたり、それを面白がる人々に対して嫌悪感を抱いていた。
さらに、この件は事実が捻じ曲げられて伝えられており、景隆は憤りを感じずにはいられなかった。
当事者ではない景隆でさえ、このような感情を抱くことを考えると、渦中の神代の心中は察するにあまりある。
景隆はお世話になった神代や霧島プロダクションに対して、できることは何でもやるつもりだった。
橘は霧島プロダクションの関係者に指示を出していた。
芸能界に関して知見がない景隆は、霧島プロダクション側の対応を橘に任せるしかなかった。
彼女なら適切に対応してくれるだろう。
そうなると、景隆が対応できることは船井率いるエッジスフィアに対してだろう。
柊はすでに何かを考えているようで、景隆に声をかけた。
「翔動のほうでも、できることをやるぞ」
「待ってました!」