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第154話 親子逆転

「船井さんの狙いはさくら放送です」

白鳥ビルの会議室でいきなり結論から述べた柊に、参加者は一様に驚きの表情を浮かべていた。


景隆は緊急で役員会議を開催した。

東郷が社長を務めるフォーチュンアーツと船井が社長を務めるエッジスフィアが資本提携をしたことが議題となっている。


翔動には新たに非常勤取締役として橘が加わっている。

これにより、翔動と霧島プロダクションの間で協業が行われていた。 ※1


柊によると、東郷が霧島プロダクションに何かを仕掛けてくる可能性が高いとのことだ。


「さくら放送って『みうトーク』を流しているラジオ局か?」

「あぁ、そうだ」


『みうトーク』は長町がパーソナリティを務めるラジオ番組だ。

この番組では大河原も出演しており、かなりの聴取率を獲得したと聞いている。

このラジオ番組がきっかけとなり、MoGeが製作したゲーム『シティエクスプローラー』は驚異的な売上を記録した。


「そのラジオ局に何かあるの?」

新田の疑問に景隆も同意だった。


「さくら放送はメトロ放送の親会社なんだ」

「ちょ、ちょっと待って。さくら放送のほうが全然事業規模が小さいだろ? それなのにメトロ放送が子会社なのか?」


グループ企業内では事業規模が大きい方が親会社というのが景隆の認識であったが、それが覆された。


「元はさくら放送があって、その後にメトロ放送が出来たんだ。両社は同じグループに属していて、さくら放送はメトロ放送の株式の大部分を所持している」

「ラジオの後にテレビができたんだから、順番で考えるとおかしくはなさそうね」

「新聞社がテレビ局の親会社の組み合わせもあるもんな……」


日本のテレビ局は、新聞社から派生して設立された経緯がある。

この先、テレビ局が持株会社制を導入することになるが、これがエッジスフィアによる買収騒動がきっかけであることを、この時の景隆は知らなかった。


(あれ? 翔動よりもエンプロビジョンのほうが従業員数が遥かに多いから、傍から見たら翔動のほうが子会社と思われてもおかしくはないな……)

エンプロビジョンの業績は急激に伸びており、メインバンクである四十五銀行からは人材派遣企業を買収する提案を受けているほどだ。


「ちょっと待て、メトロ放送より小さなさくら放送を買うことで、メトロ放送を好きにできちゃうってことか!?」

「そうなるな」

「うそん……」


メトロ放送とさくら放送は共に上場企業だ。

したがって、資金さえあればさくら放送の過半数の株式を市場から取得することで子会社化することができ、さらに大きなメトロ放送の経営権を握ることができる。


(もし、翔動(うち)が上場していたら、エンプロビジョンがほしいという企業に買収されてもおかしくはないな……)


後で柊に聞いたところによると、日本企業には持ち合い株という、企業間で株式を持ち合う慣習があったようだ。

持ち合い株は敵対的買収から企業を守るための防衛策となるが、資本効率を低下させたり、共倒れリスクがあるなどの弊害がある。

バブル崩壊後は企業の経営が悪化し、持ち合い株の解消が進むようになった。

このような経緯から、日本企業は敵対的買収に対して危機感が薄くなっていることが想像できた。


「これまでは創業者の一族である逢妻(あいづま)家が、両社の安定株主だったので問題はなかったんだけど、現メトロ放送の刈谷(かりや)社長によるクーデターによって浮動株が増えたんだ」

「つまり、さくら放送の株が買い占めやすくなったので、船井さんが動き出すかもしれないってことか」

「大体合っている」

「ほえぇ、さすが船井さんだな……」


景隆は船井の狙いに感嘆していた。

最小限の資金で巨大な企業を掌握するという船井の手法は、景隆の考え方に大きな影響を与えることになった。

※1 「芸能界に全く興味のない俺が、人気女優と絡んでしまった件」 224話 https://ncode.syosetu.com/n8845ko/224/

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