第153話 火中の栗
「そ、それは確かなのか……?」
景隆は恐る恐る尋ねた。
「あぁ、柊翔太は実家に携帯電話をもう一つ持っていて、この中身を確認したところ、東郷とそのようなやり取りがあった」
「お前が仙台に行っている間のことだな」
「あぁ、そうだ」
翔動の関係者でSREテクノロジーズの案件の打ち上げをしていた時、柊は仙台で映画の仕事をしていた。
「柊少年は芸能界にいたのか?」
「その辺りは不明だが、芸能界入りを目指していた可能性は十分にある」
「本人に聞くことはできないしな……ひょっとして柊少年が自殺しようとしたのは……」
「東郷が絡んでいる可能性が高い」
「……」
景隆は絶句した。
そして、自分とは全く縁がなかった芸能界の闇の部分が、こんな近くで行われていたことに驚いた。
「柊が被害者として東郷を訴えることはできないのか?」
「俺自身が、被害を受けた記憶がないからな」
「あぁ、そうか……」
柊翔太に石動景隆の人格が移ったのは、それらの出来事の後だった。
仮に東郷が何らかの証拠を残していたとしても、柊が被害者として証言することはできないであろう。
「気にはなると思うが、柊翔太のことは置いといてくれ。
話を雫石に戻すが、霧島さんと橘さんは彼女が東郷の標的になっていることがわかったため保護している」
「つまり、霧島プロダクションとの契約がなければ、彼女は東郷の餌食になっていたってことか」
「その可能性はかなり高いだろう」
「ぐっ……」
景隆は面識のない東郷という人物に対して、言いようのないほどの嫌悪感を覚えた。
「おそらく、キリプロは東郷から何らかの攻撃を受けることになる」
「霧島さんが俺たちと資本提携するってことは、それに対抗したいってことか?」
「そういうことだ。この先、メディアの矢面に立たされることもあるだろう」
「柊は……聞くまでもないか」
柊は神代と橘が所属する霧島プロダクションを何としてでも助けるだろうと思われた。
今、景隆に問われているのは、大きな権力を持つ東郷と対峙する覚悟を持っているかどうかだ。
「雫石の移籍に関しては俺にも責任の一端がある。
あまり詳しくは話せないが、この資本提携の話は俺の私情も入っていると思っていい、なので――」
「やるぞ!」
景隆は柊の言葉をあえて遮って叫ぶように言った。
柊は目を丸くして驚いている。
「神代さんや長町さん、そして大河原、翔動のビジネスは霧島プロダクションの支援があったからこそ、ここまで成長できたんだろ?
そう考えたら、今度は俺たちが力になる番だ。違うか?」
「違わない」
「キリプロから得た資金をキリプロのために使う。そして、それが翔動の利益にもなる。
なら、やらないという選択肢はないだろ?」
景隆の気迫に、柊は珍しく圧倒されていた。