第152話 敵対関係
「ちゃんと聞いておいたほうがよさそうだな」
「そうだな。いくつかの私情が入っているが、今後の事業戦略に関わる」
「よくわからんが、聞こう」
柊はひと呼吸おいて続けた。
「フォーチュンアーツという芸能事務所は知っているか?」
「ああ、業界最大手だな」
フォーチュンアーツはアイドルを主力とする芸能事務所だ。
所属タレントは各メディアの露出が高く、テレビを持っていない景隆でも知っているほどだ。
「そのフォーチュンアーツ……というか、フォーチュンアーツの社長の東郷と霧島さんが敵対関係となった」
「元からそうなんじゃないのか?」
霧島プロダクションとフォーチュンアーツの事業規模は同等であるため、ライバル関係にあるといっていいだろう。
「社長の東郷個人が、霧島プロダクションに対して明確に敵対し始めた」
「なんだか、穏やかじゃなくなってきたな。敵対関係になった理由は?」
「事の発端は雫石ひかりという子役タレントだ」
「ん、聞いたことがあるような」
柊によると雫石は子役タレントの中でも突出して人気が高く、映画やテレビドラマ、CMなどに出演しているとのことだった。
「東郷は雫石に執着していた」
「自分のところの所属タレントにしようとしていたのか?」
「半分正解だ」
柊は何か言いにくそうなことがあるのか、顔をしかめる場面があった。
「まずは契約関係の話をしよう。雫石は劇団ヒナギクに所属していた」
「子役タレントで有名なところか」
「あぁ、成人のタレントも所属しているが露出が多いのは子役だな」
「『所属していた』ということは」
「今は霧島プロダクションと契約することになっている。劇団ヒナギクの子役は、一律で小学校卒業までの契約なんだ」
「雫石って子が小学校を卒業したから、契約が切れて霧島プロダクションと契約したってことか」
「あぁ、そうだ。雫石は色々あって、霧島プロダクションとの契約を希望した」
「東郷さんは霧島プロダクションが雫石さんと契約したことを逆恨みしているのか?」
「まぁ、そうなんだが、これには東郷個人の私情が絡んでいる」
「私情?」
柊は余程言いづらいのか、いつもより言葉の歯切れが悪かった。
「東郷の性癖は知っているな?」
「それって都市伝説じゃないのか?」
景隆が知っているのは、東郷が所属タレントに対して性的な行為を強要しているという噂だった。
「事実だ。大分先のことになるが、マスコミもようやくこれを報道している」
「メディアが知っていながらも報道しなかったってことか?」
「そうだ、それだけ東郷が持つ影響力が大きいってことだ」
「マジか……」
景隆は芸能界についてよからぬ噂を耳にすることがあるが、その中でも柊が言ったことは少なからず衝撃を受けた。
「東郷は雫石をその対象としようとしていたんだ」
「まさか……」
「そのまさかだ」
「胸糞悪い話だな……」
景隆はここにきてようやく柊が言いにくそうにしていたことに合点がいった。
「ちなみに、東郷の被害者に柊翔太が含まれていることも判明している」
「ええええええええええええええっ!!!???」