第150話 資本提携
「はああああっ!!!???」
柊の報告に景隆は耳を疑った。
「すまん、もう一回言ってくれ」
「翔動と霧島プロダクションが資本提携して、俺が霧島プロダクションの執行役員になってくれと言われた」
「聞き間違いじゃなかった! 」
白鳥ビルの会議室で、霧島の見舞いから戻った柊が伝言を伝えていた。
その内容は景隆を仰天させた。
「順を追って話そう」
「頼む」
景隆は経緯を全て聞いても、納得できる自信はなかった。
柊もそれを感じているようで、話している間も狐につままれたような表情だ。
「霧島さんの持病が悪化して、入院して俺が見舞いに行った。ここまではいいな?」
「あぁ、いいぞ」
「霧島プロダクションは霧島さんに全部の権限が集中している。
とはいえ、実質的には橘さんが権限委譲されている面も多いのだが」
「霧島さんが実質的支配者だからな。
今はMoGeも霧島プロダクション株を保有しているが……まぁ誤差の範囲だろう」
「そのとおりだ」
実質的支配者とは、法人の議決権総数の4分の1超を直接または間接的に保有する個人などを指す。
霧島は霧島プロダクションの株式の3分の2以上を保有しているため、すべての決議を可決できる権利を有する。
「その霧島さんが業務ができない状態だ。したがって、誰かが代わりを務める必要がある」
「まぁ、そうだろうな」
「そこで、橘さんが社長代理を任されることになった」
「んー……柊の話を聞くと妥当なんだろうな」
景隆は柊から橘は相当優秀であり、現時点でかなりの裁量権を持っていると聞かされている。
柊の人材を評価する能力は景隆よりもあると思っているため、橘の能力を疑う余地はなかった。
「とはいえ、橘さんは梨花さんのマネジメント業務があって、これを誰かに丸投げするのは難しいんだ」
「神代さんは特殊なのか?」
「俺も全部を知っているわけではないが、おそらく彼女のプライベートなことに関連して、橘さんが専属で付いているのだと思う」
「ということは、橘さんは、社長代理兼マネージャーということか」
「そうだ。かなりの負担になると思われる」
「まさか、それで……」
「あぁ、橘さんの補佐要員として俺が指名された」
「うそん……」
柊が霧島から一定の信頼を得ていることは何となく察していたが、にわかには信じられなかった。
「仮に霧島さんが柊を役員にゴリ押しで指名したとして、周りは納得するのか?」
「そこで、資本提携の話が出た。別の意図もあるようだが……」
「資本提携と役員の任命がどう関係するんだ?」
「資本提携した相手先の企業に役員を送り込むのは割と一般的なんだよ」
「なるほど……てことは、翔動にも誰か寄越されるのか?」
「名目上になると思うが、橘さんになると思う」
「めっちゃ都合よくないか?!」
翔動にとって、橘が経営に加わることの利点は計り知れないほど大きい。
翔動の業績を上げるために、神代を広報活動に利用することが容易にできてしまうためだ。
橘が社長と同等の権力を持っているならば、神代以外の所属タレントを使うこともできるだろう。
「あれ? ……断る理由が見当たらないな?」