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第148話 手柄

「よくやってくれたわ」

料亭の一室で姫路は上機嫌に言った。


景隆と柊は姫路に呼び出されていた。

いかにも政治家が使いそうな格調高い佇まいに景隆はビビっていたが、柊は自宅で寛いでいるかのように泰然としていた。


『あれ、もしかして』

『あぁ、来たことがある。霧島さんの行きつけの店だ』

『マジか……芸能事務所って儲かるんだな』

『大手だけだよ、それより女帝の機嫌を損ねるなよ』

『あぁ、わかっているよ』


景隆と柊のアイコンタクトによる会話は数秒もかかっていなかった。


「えっと、GPS携帯の件でしょうか」

景隆は自分たちが呼ばれている理由を聞かされていなかった。


先日リリースされたゲーム『シティエクスプローラー』は、モバイルゲーム初動のとしては記録的なユーザー数を獲得した。

このゲームは位置情報を利用するゲームのため、このゲームをプレイするためには携帯電話にGPS機能が搭載されている必要がある。

アストラルテレコムの最新機種にはすべてGPSが搭載されており、携帯電話の新機種の商戦において、大きくリードすることができた。


姫路は直属の部下に、GPS機能が付いた新機種を拡販するという()()をくだしていた。

そして、景隆と柊はこれに協力することを依頼されていた。


「そうね、この件に関してはこれ以上ないくらいの成果だったわ」


姫路は満足そうに言った。

普段から厳しい表情を崩さない彼女が、このような表情を見せるのは珍しい。

この発言からすると、勅命は果たされたといって間違いなさそうだ。

(よかった、竜野さんや高槻さんのクビがつながったようだ……)


「高槻から報告を受けているわ。ゲームのほうも間に合うようにあなたたちががんばってくれたんでしょう?」


翔動はMoGeから位置情報APIの開発を請け負っていた。

これがゲーム開発の生産性に寄与し、携帯電話の新機種の発売日にゲームのリリースが間に合った形となった。

景隆と柊はゲーム開発の進捗までは姫路に報告していなかったが、高槻が動向を把握していたようだ。

(そりゃ、自分のクビがかかっているからな……)


「我々にとっても益があることでしたので」

「そうね、お互い、いい思いもできたわね」


姫路が言っているのはMoGeの株価であろう。

ゲームの発売日以降、株価は連日ストップ高を付けている。

アストラルテレコムは第三者割当増資により多額の出資をしている。

これだけでも巨額の利益をあげている。

翔動もMoGe株を買い増しており、自社の事業規模に見合わないほどの利益をあげていた。


「オランダの事業についてお伺いしても宜しいでしょうか」

柊は言葉を選びながら問いかけた。

柊はアストラルテレコムがオランダ企業に出資し、失敗することを知っていたため、何らかのアドバイスをしていたようだ。


「ただではすまなかったけど、柊くんのおかげで被害が最小限に抑えられたわ。

私の管轄ではなかったけど、上手く立ち回ることができたわ」


姫路も言葉を選びながら柊の質問に答えた。

景隆からすると、狐と狸の化かし合いにしか見えなかった。


アストラルテレコムはオランダの通信事業者に巨額の出資をしていた。

これは社長派が主導していた案件だったが、結局は業績不振により撤退を余儀なくされた。

柊から事前にこの情報を得た姫路は、社内政治で優位に立つことができたようだ。


これまでの話から、アストラルテレコムにおける姫路の地位は盤石になったようだ。

景隆の想像であるが、今、姫路は社内で最も強い権力を持っていてもおかしくはなかった。


***


「ふむ、映画のほうも好調なようね」

姫路は景隆と柊の話を熱心に聞いていた。


アルコールが入った姫路は終始上機嫌で、女帝の威厳はどこにも見当たらなかった。

社内の人間でも、このような姫路を見た者は誰もいないであろう。


「ここまでやってくれたのは、あなたたちが初めてよ。私ができることは何でも言いなさい」


こうして景隆と柊は、強力なカードを手に入れた。

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