表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/248

第144話 卒業式

「ごめんなさい」

大河原は深々と頭を下げて謝罪した。


男子生徒は「そげんか……そうたいね……」と言いながら、謝罪を受け入れていた。


「すごか……今日だけで何人目ね?」

「もう、いちいち数えとらんばい」


大河原の親友、里崎は驚愕半分、呆れ半分といったところだ。

声優として活動をし始めてからの大河原は、異性からの告白が絶えなかった。

すでに校内の三割ほどの男子生徒は大河原に告白し、玉砕しているが、今日は卒業式ということもあり、男子生徒が絶え間なく告白をしてきた。

その中には女子生徒も混じっていた。


(まるで在庫一掃セールたいね)

同性の里崎から見ても、大河原は大変魅力的であり、女性から人気が高いのも頷けた。


「菜月は東京に住むと?」

「そうたい、事務所が社宅ば用意してくれるけん、そこに住む予定たい」


卒業を控えた大河原は、本格的に声優の活動を始めた。

すでにアニメのオーディションに合格しており、霧島プロダクション所属の声優として活動して行く予定だ。


「引き続き、マネージャーは船岡さんが担当してくれると?」

「うーん、船岡さんは新人の担当やけん、そげんなっとよかばい」

「そげんなればよかね」


里崎は大河原から船岡のことをよく聞かされていた。

垢抜けてきたとはいえ、大河原は田舎者だ。

都会に出て、厳しいマネージャーに担当されたら、苦労するだろうと想像できた。


「大河原、ちょっとだけよかと?」

「はぁ……ちょっとだけ待っとって」

「はいはい、写真は断るとよ」

「わかっとるばい」


残り少ない親友との会話の機会を、断続的に奪っていく男子生徒に恨み言を言いたくなった。

大河原は丁寧なお辞儀をしていた。

(声だけやなか、仕草まで様になってしもうて)


「早かったとね」

「もう、慣れてきたばい」

「ゾンビのごとく押し寄せてくるけん、撃墜速度ば上げんばいかんね」

「もう、そげんこと言わんで……でも、智花ともかには感謝しとるばい」


里崎は校内で近づいてくる男子生徒のガード役になっていた。

男子相手に、最初はおっかなびっくりに対応していたものの、今となっては恐れられるほどの存在だ。

大河原自身も付け入る隙を一切与えていないことから、そのガードの硬さは熊本城の石垣にたとえられ、二人は『武者返し』と呼ばれていた。


(これは東京に行っても難攻不落のままやろかね……)

里崎はそんなことを思いつつ、校門を出ようとしたところで、大河原の表情が一変したことに気づいた。

二人の目の前には二十代と思われる男性と、その傍らには男性と同世代の快活そうな美しい女性が立っていた。


「あ、あっ……」

大河原は小刻みに震えながら、涙をこらえているようにも見えた。


「菜月、どげんしたと?」

大河原は学校で見ることのない表情を見せた。


「大河原、卒業おめでとう……って、うおおぉぃ」


(ばっっ!)

里崎は驚愕した。

大河原は男性に駆け寄り、抱きついて泣き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ