第142話 粛清
「あれ? ほかの株主は?」
豊岡は白鳥ビルの会議室内を見回したが、そこにいるのは景隆と柊、そして高津だけであった。
会議室には緊迫した空気が満ち、重苦しい静寂が支配していた。
高津は終始うつむいており、景隆と柊は無表情だった。
「関係者がそろいましたので、臨時株主総会を始めます」
「なんだって!? まだ須磨キャピタルとサンストラテジーが来ていないぞ」
須磨キャピタルはベンチャーキャピタル、サンストラテジーは投資ファンドだ。
ともにエンプロビジョンに出資をしていた企業だ。
エンプロビジョンの株式の内、この二社が三分の一以上を保有しているため、特別決議を否決することができる。
豊岡の目論見では、この二社を味方に引き入れることで、景隆と柊の影響力を排除することだった。
「エンプロビジョンの株式はすべて翔動が取得しました。
従いまして、関係者は以上となります」
淡々と話す景隆に対して、豊岡はうろたえた。
この話が本当だとすると、すべての議決権が翔動に帰属することになる。
「第三者機関の報告書を配布いたします。
この書類は機密事項となりますので、後で回収します。
本資料の内容を口外した場合は、背任罪に問われますのでご注意ください」
柊はそう言って、出席者に書類を配布した。
「これは、豊岡社長が送信した怪文書の調査報告書になります」
「なっ!」
「この調査内容は豊岡社長が告発と称して送信したメールの内容は、すべて事実無根であることが記載されています。内容についてご確認ください」
淡々と報告する柊に対して、豊岡は書類を持つ手が震えていた。
(全部、お見通しだったのか……)
豊岡は高津を窺ったが、彼は目を合わさないようにしていた。
書類には、豊岡による告発内容とその事実関係の調査結果が詳細に記載されていた。
柊は一つ一つの告発に対して、調査結果を元に、内容が虚偽であることを説明した。
事前に入念な準備をしていたと思われる景隆と柊に対して、豊岡は反論する術を一つも持ち合わせていなかった。
「豊岡社長の一連の行為は、当社――エンプロビジョンの統制を乱し、従業員の士気に大きく影響を及ぼしました。
したがって、豊岡社長の解任を提案します」
景隆はそう言って決を取った。
議決権を保有しているのは翔動だけであるため、結果は火を見るより明らかだ。
「お、終わった……」
創業時よりエンプロビジョン社長を務めていた豊岡のキャリアは、この瞬間に終焉を迎えた。