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第136話 テレビ効果

「ようやく会社のオフィスを持てるようになったか。感慨深いな……」

日本橋にある白鳥ビルのオフィスフロアで、景隆はしみじみと言った。


この白鳥ビルが翔動の新たな本店所在地となった。

翔動は設立以来、登記上の本店所在地は石動の自宅であった。

執務スペースとして、貸会議室やマンスリーマンションを利用していたが、事業所として登記することはできなかった。

翔動は初めてまともな事業所を得たことになる。


「最初は石動の家で二人しかいなかったのにな」

柊も物思いにふけっているようだ。


「この無駄に広いオフィスをどう使うかだな」

「下山さんはサポートとの距離が近くなってやりやすくなったと言っていたぞ」


翔動が提供するeラーニングサービス『ユニケーション』のサポートはエンプロビジョンに業務委託している。

そのエンプロビジョンのサポート部隊は、オフィス移転に伴い同じフロアで業務を行うようになった。

下山はこれまで、この部隊をマンスリーマンションの一室からリモートで管理していたが、現在は直接会って話ができる。


「エンプロビジョンから派遣する人材も増やしていきたいな」

「そうだな、採用と営業をどうするか……」


エンプロビジョンの仕事は意外なところから舞い込んでくることになる。


***


「石動、今ちょっといいか?」

デルタファイブのオフィスで、景隆は上司の烏丸(からすま)に呼び止められた。


「はい」

似鳥(にとり)さんがお前と話したいそうだ」

「ええっ!?」


似鳥はエンタープライズ部門を統括する責任者だ。

景隆にとっては雲の上の人物である。


***


「デルタイノベーション以来だな」

似鳥は景隆のことをしっかりと覚えていたようだ。


景隆は重役しか利用しない会議室に呼ばれていた。

以前の景隆であれば緊張していたであろうが、今となっては何とも思わなくなっていた。


仮にデルタファイブから解雇されたとしても、自分の事業に専念すればよいと考えると、大抵のことは受け流せるように思えた。

加えて、白鳥尊人のような大物と接してきた経験から、多少のことでは動じないようになった自覚があった。


「その節はお世話になりました」

景隆は以前開催されたイベント『デルタイノベーション』で波乱を起こしていた。 ※1

これを収拾したのが似鳥であったため、景隆は負い目を感じていた。


「デルタイノベーションのことは気にしなくていいぞ。

石動と白鳥のおかげで、マネジメント層との軋轢が少なくなったそうだ」


デルタファイブでは、毎年、全社員を対象に匿名によるアンケート調査が行われる。

調査内容には、上司に対する評価なども含まれている。

似鳥はこの調査結果に、景隆の行動が影響を与えていると思っているようだ。


「それと、テレビも観たぞ、あれの影響で新卒の採用が例年より捗っているらしい」

「う……そうですか……」


景隆の心境は複雑であった。

衆目にさらされるという羞恥心と、会社に貢献したという達成感、そして堂々と副業をしているという後ろめたさなどが絡み合っている。


「それに関連した本題なんだが、人が足りないんだ。特にサポート要員だ」

「そうでしょうね」


景隆には実感があった。

デルタファイブはギリギリの人数で業務を回しており、中間採用の人材が補充されるよりも、仕事が増えるペースのほうが早い。


「エンプロビジョンという会社は、石動が関係しているという話を聞いた」

「ええ、私がやっている会社の子会社です……まさか」

「そう、そのまさかだ」

※1 32話 https://ncode.syosetu.com/n7115kp/32/

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