第135話 力
「俺自身の情報発信力だけでなく、組織的な力がいるな」
「そのとおりだ」
仮に、景隆が災害に対して警鐘を促したとして、それを真に受けて避難したり、対策をとる者は限られるだろう。
ライフラインなどのインフラの整備や、医療体制の確保など、膨大なリソースが必要となるのは明らかだ。
以上のようなことは、当然、柊も考えているはずだ。
「多くのリソース――人・物・金を動かせるほどの力がいるな……政治家にでもなるか?」
「民間でできることもあるし、力を得れば政治に働きかけることもできる」
「白鳥の爺さんみたいな感じか」
「そうだな。白鳥グループを味方に付けるのも選択肢の一つだ」
(政治か……これまで全く関わってこなかった領域だな)
組織が大きくなるに連れ、国家や行政とも利害関係が生まれることが考えられる。
仕事ではいくつかの問題解決をしてきたが、ここまで大きな問題に対峙したのは初めてであり、実感が沸かないというのが正直なところだった。
「期限はいつだ?」
「数年以内に準備をしておく必要があるな」
「げ……それまでに世の中を動かすほどの力を付ける必要があるのか……」
今の景隆は会社員であり、零細企業の社長であり、取るに足りない存在だ。
特に事業を始めてからは、自分よりも遥かにすごい人物に出会う機会が増えてきて、自身の矮小さを自覚させられることは何度もあった。
しかし、景隆には強力な相方がいる。
かつて、自分を劉邦に例えたことがあったが、その劉邦にとっての張良と言える人物――それが、目の前にいる柊だ。
「こんなことに日和っているようじゃ、世界はとれないな」
「そうだな、単なる通過点だ」
柊は寝る前に歯を磨く程度の、ありふれた作業をするように言った。
「時系列を確認するぞ。先に金融危機があって、震災が来るんだな」
「あぁ、その間は三年くらいだ」
「金融危機でできることは?」
「それに乗じて経済力を付けることはできる」
「加えて仲間を増やしていく必要があるな……白鳥グループはその候補か?」
「俺も全容は把握できていないが、今のところ敵対する理由はないな」
仮に白鳥グループが金融危機を乗り切る手助けをできた場合、白鳥尊人から一定の信頼を得ることはできるだろう。
そして、同様に影響力を持つ人や組織と関わりを持つことで、組織力を高めていく必要がある。
「……まぁ、デカイことを言っているけど、とりあえずは目の前の仕事だな」
「あぁ、実は仙台でいくつか仕事を取ってきた」
マンスリーマンションの一室で、景隆と柊は今後のことを話し合った。