第133話 2つの危機
「ふむ、データインテリジェンス統括部か」
仙台から戻ってきた柊は、マンスリーマンションの一室で景隆の報告を聞いていた。
データインテリジェンス統括部は、白鳥不動産のデータ駆動型の意思決定を推進する部門として、新設される。
社内ではData Intelligence Divisionの略である『DID』と呼ばれるようだ。
「そのDIDのシステムをSREテクノロジーズが請け負うんだ」
「翔動はSREテクノロジーズの下請けってことになるのか?」
「いゃ、白鳥不動産――DIDから直接受けることになる。
システムの設計方針などのアドバイスがほしいらしい。
開発に加わることもあるかもしれないが、その場合は三社契約だ」
「なるほどな……」
柊は、前の人生ではデータ分析を行っている。
したがって、未来の分析手法を知っていることが大きな強みとなる。
さらに、柊は未来の出来事までを知っている。これは強みと言うよりチートと言ってもいいだろう。
「DIDで、当面は立地戦略をしていくらしいんだが、柊はすでに白鳥の親父と何かあったらしいな?」
詮人はすでに柊の分析能力を高く評価していた。
「スターズリンクプロジェクトは知っているな?」
「あぁ、霧島カレッジの案件だな」
スターズリンクプロジェクトはタレント養成所の霧島カレッジを一箇所に統合するプロジェクトだ。
「グレイスって不動産会社が、新拠点を取り仕切っているんだけど、その立地戦略に協力したことがあるんだ」
「なんで柊が……ってイマサラだな。それと白鳥不動産がどう絡んでいるんだ?」
「その土地は白鳥不動産も目をつけていたんだよ。それで、『どうやってここを見つけたんだ?』って話になって」
景隆はようやく柊と白鳥グループとの接点を聞くことができた。
柊はまだ言っていないことがあると感じているが、必要であれば柊から話してくるだろう。
「加えて、今後起きるかもしれない、金融危機の対策をしておきたいそうだ」
「まぁ、そうなるよな」
景隆と柊にとっては『起きるかもしれない』ではなく、『起きる』であるが、眉唾な情報ではないと認識されただけでも上出来だろう。
柊は未来の金融危機を知っているため、それに対する情報の集め方や対策を立てられる。
「ん? どしたん?」
景隆は、柊が神妙な顔をしていることに気になった。
「金融危機とは別に、日本ではもう一つ危機的な状況が起きるんだ」
「えええっ!?」
柊はどうやって切り出そうか悩んでいる様子だった。
どうやら、仙台で色々あったように思われる。
「福吉は覚えているか?」
「あぁ、大学の同級生だろ?」
福吉は景隆の大学時代の同級生であり、共に囲碁サークルに在籍していたこともあり、交流が深い友人関係にあった。
「その危機で亡くなっているんだ」
「えええええっ!?」