第132話 新拠点
「ほへぇ……広くてキレイですねぇ……」
鷹山は地方から上京したばかりの少女のように驚いていた。
窓からは日本橋とその周辺の市街が見下ろせる。
翔動の一行は日本橋白鳥ビルのオフィスフロアに来ていた。
翔動のオフィス候補地としての下見であるが、これ以上の条件はないため、一択となる。
「デルタファイブって結構社員いるんでしょ? 外資系だし、オフィスは広くておしゃれなんじゃないの?」
上田は「うん、まぁまぁね」と言いながらオフィス内を確認していた。
(これでまぁまぁってどんだけだよ……)
「一口に外資系って言っても、ピンキリなんだよ」
景隆は上田の基準に呆れながら返答した。
デルタファイブのオフィスは、都内に複数点在している。
これは顧客のシステムを迅速にサポートするためだ。
コール対応業務を行う規模が大きなオフィスは存在するが、郊外にある。
「本当に、こんないいところを我々が使ってしまっていいのでしょうか?」
下山はおっかなびっくりと言った表情をしていた。
「すげーッスすね! どんな悪いことをしたらこんなところを使えるッスか?」
(悪いことて……)
竹野はスカジャンにジーンズという、ひときわ浮いた格好をしていた。
「あんた、その服はなんとかならなかったの?」
「このナリじゃマズイッスか?」
「今は問題ないけど、エンプロビジョンの社員も入ってくると思うから、そのときに気まずくならないようにしてくれればいいよ」
「う……そう考えると、マンスリーマンションのほうが居心地がいいッスね」
「俺もあそこは気に入ってたんだけど、さすがに手狭になってきたからな……」
翔動のスタッフにとって、現在執務スペースとして利用しているマンスリーマンションは好評であった。
「柊の料理が食べられなくなるのが痛いわね」
新田はLANの配線や電気系統を確認している。
「あー! そうです! 柊さんの料理めっちゃ美味しいのに……」
鷹山は絶望したような表情だった。
(そこまでかよ!)
「そんな夜食ばかり食べてたら、太るわよ」
「ギクッ」
上田は「首都高が邪魔ね」と言いながら、外を眺めていた。
***
「どうかな、この場所は」
SREテクノロジーズの会議室で、詮人は景隆に問いかけた。
「我々にはもったいないくらいというか、分不相応な感じがしています」
景隆は正直に言った。
同時に、この程度のことで気後れするなら、世界をとることは夢のまた夢になってしまうとも思った。
経営判断上、このような好機を逃すことはできない。
「私は慈善事業でこの場所を提供するわけではないんだよ。投資した分は回収する責任もある」
詮人は私情ではないことを殊更に強調した。
白鳥不動産は上場企業であり、詮人は株主に対して責任を持つ立場だ。
「私も白鳥社長と同様に……いやそれ以上に君たちを評価しているよ」
「ありがとうございます」
安堂は初対面のときとは大きく異なり、景隆に向ける表情には信頼していることがうかがえた。
(白鳥の親父はこれを見越して課題を出したのか? ……思ったより食えない人物かも)
「ではビジネスの話をしよう、白鳥不動産グループはDIDという部門を立ち上げる――」