第130話 お、ねだん以上。
「はい、問い合わせ内容は自動で分類され、その分類が適切でない場合にはシステムにフィードバックすることで、分類機能の精度が上がる仕組みです」
SREテクノロジーズのオフィスで、景隆は安堂のほか、スワンデスクのチームに納品したシステムの説明をしていた。
柊は映画のロケで仙台にいるため、景隆一人で対応に当たっていた。
「この類似案件というのは?」
「過去の事例から、問い合わせ内容に近いデータを検索します」
「そんなことが可能なんですか?」
「自然言語――テキストのデータをベクトル化して、類似度を算出するアルゴリズムを実装しています」
景隆の説明に、スワンデスクのチームからの質問が絶え間なく続いた。
***
「未だに信じられない、SF映画を観ているような気分だよ」
景隆を会議室に呼び出した安堂は、放心した表情で言い放った。
傍らに居る関屋も呆然としていた。
「弊社の仕事にはご満足いただけましたか?」
景隆としては、自分が使えるリソースを最大限に活用してこの案件に臨んでいた。
これでケチが付くようなことがあれば、この会社と関係を続けていくのは難しいだろう。
柊からは、白鳥グループとの関係を気にせず、強気で交渉に当たるように言われている。
「すまなかった、石動くん」
(えええっ!?)
安堂はがばっと頭を下げ、景隆は驚きを隠せなかった。
「実は、翔動に与えた案件を、三ヶ月でできるかどうかも疑問視していた」
「私も売り言葉に買い言葉で、調子に乗った発言をしてしまいました」
その場にいた柊が止めなかったとは言え、あの時の自分は感情的であったという自覚があった。
経営者としては、冷静にかつ客観的な判断をくだすべきであったと、景隆は内省していた。
「あの時の私は、君たちを見下すような態度が出ていたと思う。
そして、これが大きな誤りだったことを痛感している」
「課題は達成したと、受け取っても構わないでしょうか」
「すべての点で及第点どころか、満点以上の成績だよ」
「ありがとうございます」
景隆はほっと胸をなでおろした。
契約上は三ヶ月分の金額で請け負っているため、この案件は大幅な黒字となる。
「使われている技術も、我々の遥か上でした。正直、色々と教わりたいことが有りすぎます」
CTOの関屋は技術的な興味が尽きないようだ。
「最も驚いたのは、短期間でここまでのものを作り上げたことだ。
いくら技術や優秀な人材を投入したところで、時間はどうしてもかかるだろう」
「それについては、種も仕掛けもあります」
「ほう」
「弊社では、すでに自社サービス向けのヘルプデスクシステムを構築していました」
景隆はネタバレをすることにした。
現実離れした状況を少しでも、現実的にしておく必要があると判断した。
新田や柊をあまり目立たせたくなかったためだ。
「ということは、自動分類機能なども――」
「はい、あれより高度なものが実装されています」
「なんだって!?」「ええっ!?」
安堂と関屋は、今日、何度目かわからないほどの驚いた表情を見せた。
「今のものでも十分すごいと思っていたが……」
「はい、これ以上は企業秘密です」
「むうぅっ、そうか……」
安堂は噛みしめるように続けた。
「白鳥社長と同様に、当社も君たちの知恵を借りたいと思っている。力添えをいただけないだろうか」
「はい、ぜひ」
景隆は安堂が差し出した手をがっしりと握って握手した。