第129話 安堂の驚愕
「翔動社から、仕様内容の確認が頻繁にきています」
日本橋白鳥ビルのオフィスで、安堂はCTOの関屋の報告を聞いていた。
内容はスワンデスクの仕様について、翔動の担当者から詳細な問い合わせがきているということだ。
「ふむ……」
安堂は思案した。
翔動の社長である石動は、スワンデスクを一ヶ月で作ると豪語した。
しかし、実際には厳しい状況となり、焦って仕様内容を確認しているのだと想像した。
「もし、かれらが一ヶ月で出来なかった場合のリカバリプランは?」
「はい、我々ならなんとか二ヶ月でできると考えております」
「では、準備を進めてくれ」
「承知しました」
安堂と関屋は、翔動が納期を守れない前提で動き始めた。
***
「社長! 大変です!」
関屋は血相を変えて安堂に報告をしにきた。
「なんだ?」
「翔動から、スワンデスクの開発が完了したと、報告がありました」
「なんだって!!」
安堂は関屋の発言が虚言としか思えなかった。
スワンデスクの発注をしてから、一週間しか経過していなかったためだ。
「デタラメじゃないのか?」
「私もそう思って、中身を確認したのですが――」
関屋の報告は歯切れが悪く、要領を得なかった。
「ええい、私が直接確認する」
***
「――これは……」
安堂は翔動から納品されたヘルプデスクシステム『スワンデスク』にアクセスした。
UIはモダンなデザインで、直感的に操作がしやすかった。
ドキュメントは用意されていたが、それを読まなくとも操作をするためのチュートリアルが用意されており、コンピューターに不慣れなユーザーでも扱えそうだ。
「ん? ドキュメント?」
安堂は傍らに置かれていたドキュメントをざっと確認した。
システムの仕様や、使用方法、テストの内容など、ありとあらゆる範囲がカバーされていた。
このドキュメントだけでも、作成には月単位の工数を要するだろう。
「本当に、このドキュメントどおりに動いているのか?」
安堂は信じられないといった表情で、関屋に問いかけた
「はい、スワンデスクのチーム全員で、動作を確認しました。
テストもすべて問題がありません。
信じがたいことですが、少なくとも品質においては我々よりも優れていると言わざるを得ないでしょう」
「これだけのテストをパスしたってことか……」
安堂は驚愕した。
ドキュメントに記載されていたテスト項目は、自社のものよりも細分化されており、自社では人力で行っているようなテストまでが自動化されていた。
「もしかして、仕様確認が頻繁に来ていたのは?」
「はい、ドキュメントやテストと齟齬がでないための確認だと思われます」
「……」
安堂は自分の予想が完全に外れたことを自覚した。
「このテストコードは正しいものなのか?」
「そ、それが……今のチームのスキルでは、このコードを読み解くには時間がかかりそうで……」
関屋は表情に悔しさを滲ませた。
「それに、仕様にはない機能も実装されていました」
「なんだって!?」
安堂は関屋の説明を受けながら、スワンデスクを操作した。
「こ、これは……」
「我々どころか、アメリカの大手企業でも実現が難しいと思われます」
安堂はこの業界で経験豊富だと自負しているが、これだけ何度も驚いたのは初めてのことだった。
「石動社長を呼べ!」