第127話 最初からデスマーチ
「石動さん、サポートプランの資料が出来ました!」
「わかった、確認する」
デルタファイブのオフィスでは、景隆と鷹山が鬼気迫る勢いで仕事をこなしていた。
「鷺沼さん、ファームウェアの更新情報をまとめました」
「早っ!……どれどれ」
白鳥も二人に負けないくらいの早さで、仕事をこなしている。
***
「ふー、思ったより早く終わりましたね」
電車の中で、鷹山は晴れ晴れと言った。
景隆、鷺沼、白鳥、鷹山の四名はレンタルオフィスに向かっていた。
夕方に差し掛かった車内は、ラッシュ前の時間帯ということもあり、空いていた。
「むしろこれからが、本番な気分だよ」
普段から落ち着いている白鳥であるが、景隆にはいつもより活力があるように見えた。
デルタファイブに所属している四名は、終業後、翔動のプロジェクトに合流している。
今週はそれぞれが有給を一日取っており、その日はフルタイムで翔動で働く予定だ。
鷺沼がスケジュールを調整し、最も効果的な日に休みを入れている。
「まさか、あのジミー・ペイジまで関わるなんて、驚きだね!」
「鷺沼さん、知っているんですか?」
「OSS界隈では世界的に有名なエンジニアだよ。OSの開発にも携わっているんだ」
「ほへぇ、石動さんの周りにはすごい人ばかりが集まりますね」
鷹山はキラキラとした目で景隆を見つめている。
「肝心の俺はぜんぜんすごくないんだけどな」
「石動くん、自分で劉邦って言ってたじゃん」
「げっ! アレを観たんですか……」
「そりゃ見るよ、社内でも話題になってるよん」
「ううぅ……恥ずかしい……」
景隆は穴があったら入りたかった。
***
「「カタカタカタカタカタカタ」」
レンタルオフィスでは、柊と新田がものすごい速度でキーボードをタイプしていた。
「みなさん、おつかれさまです」
「進捗はどうですか?」
「はい、ジミーが開発に加わったことで、かなり順調です」
下山は進捗を合流した四名に共有した。
ジミーは米国で開発をしているため、日本時間では深夜でも、開発は着々と進んでいた。
「新田と柊は?」
「寝る間も惜しんで作業をしていますね。
一応、仮眠を取っているようですが、隣のホテルに宿泊しているようです」
「マジか……」
柊と新田は自分の担当内容が、後の工程の進捗に大きく影響することを十分理解していた。
二人のただならぬ迫力から、最初から全力で取り組んでいることがひしひしと伝わってきた。
この二人に感化されたのか、白鳥と鷹山はウズウズとしていた。
「んじゃ、デルタファイブ組もがんばりますか」
「「「応!」」」