第126話 ドリームチーム
「すごい、フリーのデータベースだけで、ここまでスケーリング ※1 ができるんですね」
大熊は翔動で使われているヘルプデスクシステムの説明を受けて、ひたすら感心していた。
ここは都内のレンタルオフィスだ。
翔動で使っているマンスリーマンションは手狭になったため、景隆はレンタルオフィスを借りることにした。
翔動ではSREテクノロジーズから受託した案件を短期間で終わらせるために、人員を増強した。
大熊は新田が所属していたサイバーフュージョンの社員で、データベースのエキスパートだ。
どうやら、大熊は柊とも面識があったようだ。
新田が「DBのことなら全部大熊にやらせておいて問題ないわ」と言わせるくらい、大熊は優秀であった。
これまでは新田がどの技術領域もカバーしていたが、特定の領域を任せられる人材がいることで彼女の負担はかなり減っていた。
「MVC ※2 が使われているのか……とことん最新技術を追いかけているんだな」
「あぁ、スワンデスクの仕様書にはビジネス要件しか記載がなかったからな」
白鳥の問いに景隆が回答した。
スワンデスクとは、SREテクノロジーズから受託しているヘルプデスクシステムの名称だ。
「まさか、俺が実家に関連した仕事をやることになるとは……」
鷺沼の思いつき(?)で、白鳥もこの案件に巻き込む形となった。
白鳥の父、詮人は白鳥不動産の社長であり、その子会社の案件を息子である白鳥が関わることになった。
詮人からは、白鳥を翔動で働かせることを打診されていたが、これが早くも実現する形になった。
『お前の親父はこのことを知っているのか?』
景隆は気になっていたことを、こっそりと白鳥に聞いた。
『一応、報告はしておいた。安堂さんには内密にしてくれるようだ』
『それはよかった』
景隆は安堵した。
白鳥がこの案件に関わっていることがSREテクノロジーズに判明した場合、実力以外の要素で評価されることを懸念していたためだ。
白鳥自身も親の七光を嫌っており、白鳥グループとの利害関係が薄いデルタファイブに就職している経緯があった。
「白鳥にはテストやドキュメント関連を任せたい。テストは竹野くん、システムの概要は鷹山に聞いてくれ」
「あぁ、わかった」
「白鳥さん、改めてよろしくお願いしますね」
鷹山は頼もしい味方ができたことで、声が弾んでいた。
景隆にとって白鳥の存在は大きかった。
デルタファイブでは苦楽を共にした仲間であり、安心して仕事を任せられる相手であった。
「ウソ!? APIのコードから、ドキュメントが自動生成されるの!?」
鷺沼は翔動で使われているヘルプデスクシステムのソースコードを読んでいた。
彼女は早くもこのシステムの概要を把握していた。
「あぁ、それは――」
「ちょっと待って、考えるから……柊さんでしょ?」
「ギクッ」
鷺沼は持ち前の勘の良さで、ドキュメントの自動生成の仕組みが柊によって実装されたことを見抜いた。
柊は鷺沼に対して思うところがあるのか、彼女とは少し距離を取っていた。
「鷺沼さんにはプロジェクトマネジメントの補佐と、手が足りないところのヘルプをお願いします。
プロジェクトの内容については、下山さんに聞いてください」
「おっけ」
「よ、よろしくお願いします」
下山は、景隆から鷺沼は何でもできる人だと聞かされていたためか、緊張した様子で挨拶をしていた。
下山はこの鷺沼との出会いをきっかけに、プロジェクト管理のスキルが大きく向上することになる。
***
「いやー、ホントに一週間でできちゃうかもね……」
下山の説明を受けた鷺沼は、感心していた。
「アプリケーションを作っている新田と柊次第ではありますが」
景隆はシステムに最も重要な部分を新田と柊に任せていた。
これ以外の部分に関しては人員を増やせばなんとかなるレベルであるが、新田と柊をカバーできそうなのは、この場では鷺沼だけになる。
「あのー、ジミーにも声をかけてみましょうか?」
「マジで?」
デザインを担当している森ノ宮がおずおずと手を上げた。
かくして、景隆が知り得る範囲での最強のメンバーがここに集結した。
※1 データベースサーバーの処理能力や容量を増減させること
※2 Model View Controller: アプリケーションのデータ(モデル)、表示、処理ロジック(コントローラー)を分離して構造化するデザインパターン