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第119話 観藤会5

「「……」」

料亭の個室に、二度目の静寂が訪れた。


「色々聞きたいことがあるが、デルタファイブに残留することと関係があるのかい?」

詮人が沈黙を破って質問した。


「はい、デルタファイブには優秀な計算機科学者がいます。

彼とのコネクションを維持したいと思っています」

「その人とは、面識が?」

「ええ、先日行われた社外のイベントで初めて会うことができました」

「おそらく、娘が行ったイベントだな」


疑っているわけではなかったが、詮人の発言は柊の情報の裏が取れた形となった。


翔動(うち)の超優秀なエンジニアが、彼との接点を作ることに成功しました」

「技術的な情報のパイプができたという認識で合っているかな?」

「はい」

「石動くんは、ロジック半導体を作りたいってこと?」


これまで会話にあまり参加していなかった、白鳥冬華(とうか)が口を開いた。

冬華は白鳥化学の社長だ。

冬華は白鳥の叔母であるが、姉と言われてもおかしくはないほど若く見え、美しい容姿をしていた。


「はい、御社が関わっているような素材の工程ではなく、設計をしたいと考えています」


白鳥化学は半導体プロセス材料を扱っている。


「うむ、石動くんは日本の半導体産業が凋落した理由はどのように考えているかね」

尊人は探るような目つきで景隆に質問した。


「いくつかの要因が考えられますが、一つは過剰品質です」

「ほう」


「かつて、日本が強かったDRAM ※1 はメインフレーム用に使われていました。

当時の製品に要求された品質は長期間壊れないことでした。

そして、この品質においては他国の追随を許しませんでした」

「そうだな」


メインフレームは汎用の大型コンピューターを指す。

現在では現在では移植性を持つオープン系が主流だ。


「ところが、パーソナルコンピューターが普及すると、二十年以上故障しない半導体を作っても意味がありません」

「PCの耐用年数はせいぜい五年くらいですね」

法善寺は景隆の説明に納得しているようだ。


「DRAMに関して言えば、安価に量産する方針に転換する必要がありました」

「日本の半導体産業はそれができなかったと?」

「そう思います。加えて、垂直統合型の仕組みは半導体産業において時代遅れになりつつあります」

「水平統合型であるべきということかしら?」


垂直統合型は一社で全工程を一貫して行うことを指し、水平統合型は特定の工程を担う複数の企業が一体化することを指す。

冬華が経営する企業の取引先は、垂直統合型と水平統合型のどちらも存在するが、ビジネスのトレンドを把握しておきたいのだろう。


「はい、半導体の技術革新は急激に進みます。

それに伴い、製造技術を先進化していく必要があります」

「図体が大きいとダメということだな」

「そう思います」


景隆の話は柊からの受け売りであるが、今となっては景隆も新田も、柊と同じくらい半導体を作る情熱を持っていた。

その情熱に当てられたのか、大企業のトップたちは景隆の話を熱心に聞き入っていた。


「――なるほど、ここまで言うからには何か戦略があるということだね」

「はい、もちろんです」


尊人の試すような問いかけに、景隆は堂々と言い放った。


***


「ふむ、末恐ろしいな」

「と、言いますと?」

詮人には、尊人が面白いおもちゃを見つけた子供のようにみえた。


「私と初対面の反応は決まっている。大抵は『恐れ』や『畏れ』だ」

尊人は、自身の持つ権力や権威に相手が萎縮しているのを、嫌と言うほど見てきた。


「しかし、あの二人は自分のことを私と対等、もしくはそれ以上と捉えているかのような目をしていた」

「普通に考えると、若さゆえの無鉄砲さとも言えますが」

「だが、実際に話してみると――」

「そうとも言い切れない、何かがありますね」

※1 半導体メモリ(揮発性の半導体記憶装置)の一種で、Dynamic Random Access Memoryの略

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