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第117話 観藤会3

「この集まりは観藤会と言ってね――」

藤陽荘にある料亭の個室で、景隆と柊は白鳥の父、詮人(あきと)の説明を聞いていた。


詮人は白鳥と同様に端正な顔立ちで、話し方も柔らかく、とっつきやすい印象を受けた。

尊人のオーラに気圧されていた景隆だったが、詮人はオアシス的な存在であった。


観藤会は白鳥家の祖先がこのホテルを開業したとき、藤を見ながら一族の会合をしたことに端を発するとのことだった。

今では白鳥グループのトップの会合となっており、白鳥家以外の人間も加わっている。

この場にいるのは、銀行の頭取や証券会社の社長など、そうそうたる顔ぶれであった。


柊がなぜ白鳥家とのつながりがあったのか、景隆は不思議であった。

親族の反応を聞く限りだと、柊は白鳥の妹を救った過去があるようだ。


(もしかして、あのマンスリーマンションは……)

詮人は白鳥不動産の社長である。

格安で執務スペースを確保できたのは、詮人が柊に恩義を感じたのではないかと、景隆は思い始めた。


「――この会では幹事がゲストを呼ぶ権限を持っているんだ。

ここまで言えば君たちがここにいる理由がわかるだろう?」


相当な地位がなければ、この会のゲストに呼ばれることはないことが容易に推測できた。

柊が白鳥の妹を何らかの形で救ったことが、この場にいる理由だと景隆は判断した。


詮人は幹事権限と言いながら、今後の不動産業界について尋ねてきた。

柊は未来のことを知っているため、いくらでも語ることができそうだなと、景隆は考えていた。


しかし、柊が語った内容はこの場にいる全員を驚愕させるような内容であった。


***


「「……」」

料亭の個室に静寂が訪れた。


柊の話を要約すると、まずは日本の不動産市況はバブル崩壊の後遺症を解消し、回復に向かうとのことだった。

不良債権処理が不動産業界に関わらず、経済全体の重しとなっていたことは景隆も理解していた。

柊によると、回復のきっかけは銀行への公的資金注入であった。


しかし、米国発の金融危機が人類にとって未曾有のショックを与えると言った柊の発言で、この場にいる誰もが驚いた。

景隆にとってもにわかには信じがたい話であったが、柊が経験している以上、真実を言っていることがわかる。


柊はサブプライムローンという、複雑怪奇な金融商品の説明をした。

この場にいる金融業界の専門家が二人にとっても、複雑な金融商品であるようだ。


ここで言う専門家とは、一人は詮人の兄である白鳥基人(もとひと)で白鳥銀行の頭取だ。

もう一人は白鳥証券の社長である法善寺君枝(ほうぜんじきみえ)だ。


サブプライムローンが、住宅ローンを証券化した金融商品であることが、法善寺の関心を呼んだようだ。

そして、そこに潜在するリスクが基人にとって看過できないようで、もとから厳格な顔がさらに厳しくなった。


「大変失礼した」

席を外していた基人が深刻な表情をしながら戻ってきた。


「柊くんが懸念していることを、最も優秀な部下に調べさせてみた」

(休日なのに、部下の人も大変だな……)


基人の優秀な部下をもってしても、柊が言ったサブプライムローンにリスクがないとは証明できなかったようだ。

このことで、基人は柊の言ったことを信用したようだ。


「すまない、柊くん、石動くん」

「はい?」「はぁ?」


基人が突然謝ったことに対して、景隆は心当たりがまったくなかった。柊も同じようだ。


「観藤会のゲストは白鳥グループにとって、重要な人物が招かれるんだ。

詮人が君たちを呼んだのは、綾華の恩人という理由だと思っていた」


(そうなんじゃないの?)

綾華とは白鳥の妹のことだろうが、景隆は基人が何を言わんとしているのか、今ひとつわからなかった。


「先程の君の話は、白鳥グループの命運を分けると言っても過言ではない。

過去の観藤会のゲストの中でも、君たちは最も重要な部類に入るだろう」

「過大評価じゃないでしょうか。実際に起こるかどうかわかりませんし」


景隆は柊の言った内容が事実だと知っているが、基人にとっては不確実な情報だ。


「もちろん、これから情報は精査する。

そして、この話が真実性が高いと判断された場合、我々は最も重要な情報を得たことになる」


基人の発言に一同は頷いた。

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