第115話 観藤会1
「そういえばあんたたち、何で今日はスーツなの?」
新田は、景隆と柊の姿を見て言った。
「いまさらかよ」
景隆はツッコミの遅さに呆れていた。
「柊から今日は夕方から用事があるから、スーツで来いって言われたんだよ」
翔動では服装規定がないため、景隆と鷹山以外の従業員は私服で出社している。
景隆はスーツ、鷹山はビジネスカジュアルを着ているのは、デルタファイブの就業後に出社しているためであった。
したがって、この二人も休日に出社する場合は私服であった。
「てことは、もうすぐいなくなるのね」
「そういうことだ」
景隆と柊、新田の三名はマンスリーマンションの一室で作業をしていた。
今日は休日であるが、役員は休日手当の概念が存在しないため、際限なく働いていた。
特に新田は鬼気迫るように仕事に取り組んでいた。
これは柊のスマートフォンに格納してある未来の情報を得てから顕著になった。
「いい加減、人を増やさないとなぁ」
翔動のビジネス――特に、ユニケーションは加速的にユーザーが増えており、現在の人員では手一杯だった。
新田は新しい技術を使った、新機能や新規サービスに専念しているため、現行の業務は下山と竹野の二人で回していた。
景隆と柊は新規事業も見据えているため、人手不足は喫緊の課題だ。
「場所はどうするのよ」
「そうなんだよなぁ……」
このマンスリーマンションの部屋では人材を増やした場合、キャパシティが足りなかった。
翔動の従業員に加えて、ウェブデザイナーの森ノ宮や、声優の大河原もこの部屋で作業をすることもある。
***
「柊様、石動様。お迎えに参りました」
凛とした雰囲気を持つ女性は、恭しく頭を下げた。
「なんだなんだ?」
景隆は想定外の来客に面食らった。
「用事があるって言っただろ?」
「あぁ、そうか」
景隆は柊から、用事があるという事前情報しか与えられなかったため、出迎えがあることを想定していなかった。
「白鳥家の使用人、黒田と申します」
黒田と名乗った女性は武道を嗜んでいるのか、姿勢がよく、立ち居振る舞いに隙がない印象を受けた。
景隆は柔道の有段者であるが、自分より格上の相手と試合をする感覚を想起させた。
「白鳥ってもしかして……?」
「あぁ、白鳥の親族と会うことになっている」
「は? 白鳥ってあの白鳥の?」
「その白鳥で合っている」
柊が言う白鳥は、デルタファイブの同僚である白鳥で間違いないであろう。
(ってことは白鳥財閥の誰かが出てくるのか……?)
景隆は白鳥家の家族構成を、妹がいるくらいしか知らなかった。
「新田、俺たちはこのまま直帰するから、戸締まりよろしく」
「はい、いってらっしゃい」
新田はこちらには一瞥もくれずに、もくもくと作業をしていた。
景隆はこの後の展開に度肝を抜かれることになる。
白鳥家家系図です
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