第113話 対談2
「私自身はエンジニアとしても、経営者としても優秀だとは決して考えておりません」
「おや?」
上村が意外そうな反応を示した。
「私は劉邦のような存在になれればよいと思っています」
「漢の高祖ですね」
柊によると歴史に詳しいという神代が反応した。
「劉邦は突出した武力もなく、優れた戦略家でもありませんでした。
しかし、彼の元には優れた人材が集まったことで、漢王朝を建国できたのです」
「それは、石動さんの周りに優れた人材がいらっしゃるということですか」
「はい、デルタファイブの同僚も、翔動のスタッフも皆優秀な人ばかりです。
私はその仲間に全幅の信頼を置いているからこそ、自分自身が活躍する必要はないと思っています」
「なるほど、そこが折り合いを付けるポイントになっているのですね」
「おっしゃるとおりです。
いくつかの幸運が重なって、優秀な人材に恵まれました。
彼らの活躍をサポートすることが、私の役割だと考えています」
二宮は話を引き出すのが上手く、景隆は自分が思っているよりも饒舌に話していた。
神代は「なるほどぉ、たしかに劉邦っぽいですねぇ」と相づちを打っていた。
「上村さん自身は経営者であると共に、優秀なエンジニアでもありました。
これは映画『ユニコーン』の主人公である的場も同様です。
石動さんのお考えとは対照的に思えますが、この点についてはいかがでしょうか」
景隆の発言によって、二宮の質問は事前に提示されていた内容とは大きく外れてきた。
しかし、神代も上村も一向に気にした様子はなかった。
むしろエンジンがかかってきたようにも見える。
「一見すると対照的に見えるかもしれません。
ですが、実は両者とも『企業価値を最大化する』という点では共通しています。
企業が大きくなるに連れて、私も石動さんのような考え方を持つようになってきました。
その点で、石動さんは最初から経営者としての価値観を持っているのではないでしょうか」
「なるほど、ゴールは同じというわけですね。神代さんはいかがでしょうか」
「私は的場というスーパーエンジニアであり、カリスマ経営者と言われる役を演じてきましたが、その役になりきるためには多くの人から学びを得ました。
才能と言ってしまうのは簡単ですが、その才能を表現するためには、さまざまな人から学びを得ることが重要だと気付かされました」
「なるほど、突出した人材が生まれるのは、周りのサポートがあったからということですね」
「そのとおりだと思います。映画では沢木役を演じた美園さんがうまくサポートしているので、ぜひご覧ください」
「それは楽しみです」
神代は要所要所で映画のことを上手くアピールしていた。
(俺も会社のことを上手く伝えていかないとな……)
「次に、作中で使われている技術がお二人の会社でも――」
対談は白熱し、予定時間を大幅に超えていたが、それを止める者は誰一人としていなかった。