第109話 Web Tech Expo 4
「ええっ!」「なんだなんだ?」
イベント会場ではどよめきが広がっていた。
軽快なBGMが流れ、ステージ上に神代と美園が現れた途端に歓声が沸き起こった。
映画『ユニコーン』と同じ衣装を着た二人は、軽快なリズムに合わせて、躍動感あふれるダンスを披露している。
イベント参加者は突然始まったパフォーマンスに驚愕し、今では完全に魅了されていた。
「ピッタリ合ってる……」「第七使徒を倒している」
二人の動きはシンクロし、息の合ったコンビネーションで、ダイナミックなパフォーマンスを繰り広げる。
「か、カッコいい……」「すごすぎる……」
ビジネスパーソンがダンスを踊るという、日常感と非日常感の相反した光景は堅苦しいビジネスイメージを一掃し、ユーモアと遊び心を包含したダイナミズムを想起させた。
BGMが止まり、ダンスの最後のポーズで静止した瞬間、会場は一瞬にして静寂に包まれた。
そして、一瞬の静寂を破るように、割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。
「映画『ユニコーン』沢木役の美園です」
ステージ上の美園に会場内の注目が集まった。
「映画のエンディングでこのダンスを踊っています! 観てくださいね!」
美園の発言を受け、再度会場がどよめいた。
映画のエンディングにダンスを入れるアイデアは景隆がダメもとで提案したものだ。
柊によると、この提案は意外にも監督の風間に受け入れられ、神代も美園も乗り気で、実現に至ったようだ。
『神代さん、忙しい中すごく練習したんだからな』
と、柊が言っていたとおり、ダンスの完成度は一朝一夕ではなし得ないものであることが、素人の景隆でもわかるほどだった。
「的場役の神代です。私は美琴の動きについていくので必死でした」
神代は息を整えながら話している。
「実は、ユニケーションというeラーニングで『沢木のダンス教室』という講座があり、踊り方を学べます」
『沢木のダンス教室』は映画『ユニコーン』のコラボレーションで実現された講座だ。
「私が生徒をやっています。詳しくは翔動さんのブースで確認してみてください」
神代の発言により、この後、翔動のブースは大変な騒ぎになった。
***
「はぁー、もう無理……」
マンスリーマンションの一室に移動した景隆は精も根も尽き果てていた。
美園と神代のサプライズイベントは、神代の基調講演と同様に動画にアップされ、驚異的な再生数を記録した。
サイバーフュージョンのサーバーがダウンしたり、インターネットサービスが遅延するなどの影響があった。
このことがネットニュースにも取り上げられ、その影響もあり、ユニケーションのアクセスが急増した。
景隆、柊、新田の三名はこの対応に追われていた。
「尋常じゃないくらい人が来たわね」
翔動のブースには来場者が殺到し、人混みが苦手な新田はぐったりしていた。
「ネットでもかなり話題になっているな」
柊の表情にも疲れが見えていた。
この日を境に、株式会社翔動は世間に大きく知られることになった。