第107話 Web Tech Expo 2
「お名前は?」
「斎藤です!」
翔動のブースではイラストレーターの『まみやり』によるサイン会が行われていた。
サイン会は景隆の要望で行われ、翔動のブースは盛況のままだった。
「ありがとうございます! 宝物にします!」
斎藤と名乗った男性は、イラストが書かれた色紙を大事そうに抱えて言った。
色紙のイラストには、MoGeのゲーム『シティエクスプローラー』のキャラクター、ナナとファナが描かれている。
シティエクスプローラーは発売前だが、キャラクターデザインはすでに公表されていた。
加えて、柊は自分の代わりの助っ人として、森ノ宮を呼んでいた。
森ノ宮はユニケーションを熟知していたため、十分な戦力となっていた。
「このままだと、初日は切り札は温存だな」
「そうですね、これ以上何もしなくても人は集まっていますし……」
鷹山の顔には疲れが見えていた。
ユニケーションのユーザーが急激に増えてきており、新田はその対応をするため、マンスリーマンションの一室に移動していた。
「下山さん、すごくいい話を聞かせていただきました!」
下山が戻ってきたものの、彼のトークを聞いた参加者が続々と押し寄せ、ブースへの来客者は後を絶たなかった。
「すまん、遅くなった」
「はわわわわわ……尊い……尊すぎる」
柊が謎の美少年を連れて現れた。
今宮は取り乱した挙句、お祈りをするような仕草で二人を眺めている。
(なんだ、なんだ?)
景隆は今宮の不可解な反応が理解できなかった。
そして、今宮が自分の激推しのアイドルが目の前にいたことに気づくことはなかった。
「これが柊さんの会社のサービスですか」
異常に整った容姿をした美少年は、ユニケーションのデモを操作する柊を愛おしそうに眺めていた。
今宮はのぼせたのか、鼻血が出たようだ。
なぜか周りの男性も、この少年をうっとりと眺めている。
***
「はあぁー……超つかれた……」
イベント初日が終わり、マンスリーマンションの一室に移動した景隆はぐったりしていた。
「これからが本番なんだからね」
「わかっているよぉ」
景隆と柊はユニケーションのユーザーが急増したことを受け、システムをスケールアップするために新田に合流した。
翔動のスタッフはイベントの対応で疲れ切っていたため、役員だけがこの場に集まっている。
「とりあえず、登録が増えただけなので、動画の投稿などが出てくるとさらに負荷が上がるぞ」
「神代さん、化け物だな……まだ初日なのに、こんなに増えるとは思わなかったよ」
神代の基調講演はスポンサーブースでもサテライト中継され、誰もがその演説に聞き入っていた。
景隆も感銘を受けた内の一人である。
「ユニコーンのコラボ教材がバカ売れしているわね」
映画『ユニコーン』とコラボレーションした公式コンテンツは、神代が映画と同じ衣装を着て教鞭を取っている。
サーバーのアクセスの大半がこのコンテンツの動画であった。
「下山さんのトークも好評だったな」
「あぁ、おかげで翔動に興味を持ったと言う人が結構出てきたな」
「それはリクルーティングできそうな意味で?」
「あぁ、そうだな」
「デクランは?」
「明日会えると思う」
「神代さんと、美園さんも顔を出すって言っているし、明日も大変なことになりそうだな」
神代はイベント二日目にも現れるため、イベント会場は相当な混乱が予想される。
「そういえば、今日現れた美少年は誰なんだ?」
「親戚の子」
「うそつけ!」