第106話 Web Tech Expo 1
「なんじゃこりゃあ」
景隆は思わず、七曲署の刑事のような叫び声を上げた。
人、人、人。Web Tech Expoのスポンサーブースはイベント参加者で溢れかえっていた
Web Tech Expoは神代による基調講演から始まり、現在はイベント参加者が思い思いの場所に足を運んでいた。
イベントのメインはトークであり、スポンサーブースは昼休みなどの休憩時間に賑わうのが例年の相場であった。
しかし、今年は映画『ユニコーン』のスポンサーブースに黒山の人だかりができており、その隣の翔動のブースにも次々と来場者が訪れた。
「どう考えても、神代さんの基調講演ッスね」
「そうだな」
神代の基調講演は大きな反響を呼んだ。
講演中に紹介があった影響もあり、スポンサーブースにイベント参加者の注目が一気に高まった格好だ。
「ユニコーンのコラボがあるって本当ですか」
「今日と同じ衣装を着た神代さんが出てきますよ」
「マジですか!」
鷹山が来場者にユニケーションの説明を始めた。
彼女の愛嬌のある対応は受けが良く、集客に拍車をかけた。
景隆としては待ち行列にいる来場者を待たせないため、手短に説明をしたいと考えていた。
しかし、映画のコラボレーションの影響は思いの外大きく、来場者からの質問が絶えなかった。
「すみません、下山さん、この後トークが控えているのに」
「いえ、何かしているほうが楽なので」
下山はイベント前から緊張していたため、気が紛れるよう、仕事があったほうがよいと主張していた。
「仮想化技術について話されるんですよね」
「はい、このユニケーションでも使われています」
「楽しみにしています!」
彼は『Speaker』と書かれたシャツを着ており、登壇者であることがわかりやすくなっていた。
このため、下山に声をかけてくる来場者も多かった。
「これは須賀川さんの声なんですよね?」
「はい、ほぼすべての公式コンテンツで使われていますよ」
「ボク、彼女の大ファンなんです! すぐにユーザー登録します!」
(さすが上田だな)
上田は営業職であるため、うまく来場者に対応していた。
柊によると、外面だけはいいらしい。
「動画のエンコードがうまくいかないんですが――」
「動画形式はどうなっていますか?」
技術的な質問は主に新田が対応していた。
新田の愛想は鷹山と比べると大きなギャップがあるが、多くの男性は彼女の容姿に惹かれているようだった。
「ふぃー、息をつく暇もないな……柊めぇ」
「めっちゃイケメンの男の子でしたね」
柊はアイドルと見紛うほどの容姿の少年を連れて、この場を離れていた。
「鷹山はああいうのがタイプなのか?」
「いぇ、私は年上が好みです」
鷹山はきっぱりと断言した。