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こいゆび、ひみつ  作者: 地熱スープ
募る思い
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願いごとの短冊『琴音』

制服姿のまま鞄を肩にかけた琴音と葵は、放課後、商店街のアーケードに足を踏み入れた。


夕暮れの光が二人の影を長く伸ばし、制服の袖や髪をほんのりオレンジ色に染めている。部活帰りの学生たちが自転車で駆け抜け、駄菓子屋の前には小学生の輪ができていた。


アーケードの天井からは色とりどりの短冊や吹き流しが揺れ、紙の星や小さな鶴がくるくると回っている。

焼き鳥の香りやたこ焼きの湯気が漂い、どこからか太鼓の音も聞こえてくる。浴衣姿の子どもや、仕事帰りの大人たちも足を止めて飾り付けを見上げていた。


「わあ、すごいね!こんなに綺麗な飾り付け、初めて見たかも」


琴音は目を輝かせ、時々葵の腕を引きながら「見て見て!」と声を上げる。その表情は普段よりもいきいきとして、頬がほんのり染まっていた。


「この時期にここの商店街はこういうことするんだよ」


葵は制服の袖をそっと直しながら、落ち着いた声で少し得意げに微笑み、話し始める――


「大きなお祭りってほどじゃないけど、毎年七夕の時期になると、商店街の人たちが手作りで飾り付けするの。お店ごとにテーマを決めて、短冊や吹き流し、折り紙の星とか鶴とか、みんなで作るんだよ。屋台も出るし、たまに子ども向けのワークショップや、小さなステージで地元の子たちがダンスや歌を披露したりもするんだ。」


「へえ……そうなんだ」


琴音は目を輝かせながら、アーケードの天井を見上げる。紙の星や鶴が風に揺れて、きらきらと光を反射していた。焼き鳥やたこ焼きの香りが鼻をくすぐり、どこかから太鼓の音がリズムよく響いてくる。


琴音のはしゃぐ様子を横目で見て、葵は少しだけ口元を緩めた。

「地元の人は毎年わりと楽しみにしてるみたい。琴音が喜んでくれてよかった。」


***


風が吹くたび、紙の星や鶴がくるくると回り、琴音の髪がふわりと揺れる。琴音はその感触を楽しむように目を細め、短冊を手のひらでそっと撫でた。

心まで浮き立つような気持ちに、琴音は思わず深呼吸した。


通りのあちこちには、短冊とカラーペンを配るスタッフの姿があった。


「ぜひ願い事を書いてみてください!」


明るい声に促され、琴音は少し照れながらも一枚、淡いピンク色の短冊を受け取る。指先が少し震えているのを、葵はそっと見守っていた。隣では葵が、もう何を書こうかとペンをくるくる回しながら考えている。


「何書くの?」


葵が肩を寄せ、琴音の手元を覗き込む。その指先には自分用の短冊が握られ、既に「世界征服完了!」と茶化した文字が踊っている。


「うーん……」


琴音はペンを握りしめ、人差し指で下唇をそっと噛む。鞄の紐が左肩から滑り落ちるのも気づかず、真剣なまなざしで短冊を見つめていた。


(家族みんなが健康で幸せになりますように――)


丁寧な丸文字で書き上げると、胸の奥がじんわり温かくなった。母が夕食の支度をする姿がふと脳裏を過る。


短冊を笹の枝に結びつける指先が、ふと止まる。風に揺れる緑の葉の間から、琴音の頬が淡く紅潮する。


(陽太くんも、どこかで短冊を書いてるのかな……。サッカーの上達? それとも――)


商店街の明かりが次々と灯り始め、焼きそばの醤油の香りと風鈴の音が混ざり合う。浴衣姿の少女たちが金魚すくいの屋台で笑い、琴音の足元には七夕飾りの影が網目のように広がっていた。


「そろそろ帰ろっか」


葵の声にふと現実に引き戻される。琴音は慌てて鞄の紐を直し、「う、うん」と頷く。その瞬間、ふと隣の笹に「琴」の字が書かれた短冊が目に入り、息を飲んだ。


葵はその様子を訝しげに見つめながら、


「あら、琴音の耳が真っ赤よ?」


と悪戯っぽく囁き、商店街の出口へ歩き出した。


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