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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

扉が開きません

作者: 瀬ヶ原悠馬

 瞼越しに感じる、仄かな明かり。カーテン漏れる太陽光に起こされると思いきや、左側から感じる明かりしかない。目をゆっくり開けると、まだ夜だった。


 どうしてこんな時間に目が覚めたのかも分からないが、スッキリもせず、かと言って不快な目覚めでもない。


 もう一度寝たい気持ちも起きず、体を起こした。ボヤッとした頭で、そのまま隆太(りゅうた)自身の部屋の扉まで行き、目を擦ってドアノブを握る。手前に引こうとした木製の茶色の扉は、びくともしない。


 視界が一気にきらびやかになった気がした。

「あ?」

 ガチャガチャするも、びくともしない。ドアノブに視線を移すと、その上に一から十の数字があるキーパッドに、赤いライトで作られた″パスワードを入力してください″という文字があった。


 右から左に流れ、まるで電車内の電光掲示板のよう。

「なんだこれ?」

 自分の部屋のはずなのに、取り付いているはずもないパスワード式の鍵が付いている。

「ふっ」

 ざけんなと言おうとしたが、その先の言葉を出さなかった。代わりに鼻息が出る。部屋を見渡した。


 対角線上にあるのはベッドとクローゼット。ベッドの頭にしてカーテンと窓。右手角に電気スタンドとパソコンが置かれた木製のテーブルに、隆太との間に本棚。背中にある扉の真向かいには、画鋲で抑えつけられたカレンダーがある。


「パスワードってなんだよ」

 自身の部屋のパスワードを知らないという、訳もわかない事態に陥っている。どうせなら、ベッドにでももう一度横になってやろうか、とも思った。


 ベッドに向かって二歩三歩と歩き出した時、途端に尿意を催してくる。

「トイレ、行きたい」

 扉と対面する。凝視して開くほど生易しいものではない。まだ我慢できるくらいではあるものの、このまま眠れるわけもない。


 パスワードの解析に移ろう。数字であるからには、なにかしら数字になるような物が答えだろう。この部屋の数字といえば、カレンダーが濃厚だろうか。


 カレンダーの前にいく。すると、付けた覚えもない十五日の木曜日に丸印が付いていた。

「そんな馬鹿な」

 とりあえず、扉の前に行って十五と入力してエンターキーを押す。


 ただ音も鳴らず、英語でエラーとだけ点滅している。

「だよなぁ」

 もう一度カレンダーを見に行く。他にそれらしいヒントはないかと探しているところ、七の数字の足からインクがタラタラと徐々にたれていった。


 顔をどんどん近づける。十四日、二十一日を七の汗が汚していく。再び扉に向かって、七一四二一と入力する。


 しかし、再びエラーと点滅した。これも駄目らしい。定番に自身の誕生日やパソコンのパスワードを入力してみるが、それでもエラーと表示される。


 なにかの機械の動作音が唸った。音からしてマザーボードだろう。勝手に電源が入ったらしい。仄かに光るスタンドに紛れてブルーライトが混ざる。


 そちらに向かい、パスワードを入力する。こちらは普通に開けたらしい。壁紙は初期設定のまましてるのだが、何故か流れ星のデスクトップ画面になっている。例によってこれがヒントなのだろうか。画面に目を凝らして、あらゆるところに意識を尖らせる。


 山の頂上から見える、夜空に浮かび上がる流れ星があるかと思いきや、真っ黒な背景に流れ星が存在を主張している。一つ一つにしっかりと個性があって、重なり合っていない。他に異変があるとすれば、ショートカットがないところだろうか。タスクバーは正常だ。


 数字がある、あるいはここから数字に変換させろというニュアンスを感じるかと言われると、一切ない。見逃しがないか、まだじっくりとチェックしている。すると一つ一つ粒がしっかりしていたのが、その一つが段々と大きくなっていっているような気がした。


 意識下に入ってくるほどの変化なので、ようやくと言ってもいいだろう。明らかに他のと大きさが違う。まるでビックバンが起きているのかのように、周囲の星が白い物に巻き込まれていく。突然、画面がバキッとひびが入り、思わずしゃがみこんでしまった。


 ガラスの割れる音。破片が部屋の中に侵入してくるのが、音や背中に当たることでわかる。画面の中から星が流れてきたというのだろうか。振り返ると、それこそ絵に描いたような黄色い星がベッドに突き刺さっており、ガラスの破片が散乱していた。その場から離れようとしてしゃがんだまま後退すると、窓ガラスに裸で丸坊主、黒い目をした血と(すす)で汚れている男が窓を叩いている。


 体がびくっと反応し、息が荒くなる。逃げようとしたときにガラスの破片が足につきささるも、そのまま扉近くまで後退していった。すると、男という存在を窓が拒むことなく隆太の部屋に侵入してきて、上半身だけが露出する。下半身は中に入ってくることはなく、腹に縄を掛けられて中刷りにされたような状態で力が抜けていた。


「なんなんだよ」

 立ち上がる時に、自分の足の裏から血が出ていることを認識する。あまり気を留めずに、飛び散ったガラス周辺まで近づいた。ガラスや星に変化はない。デスクトップを見ると、割れた画面に入った(ひび)が、数字の十三の文字を(かたど)る。


「十三、か」

 試しに、扉の前でそれを入力した。エラーと表示される。まだ謎が残っているのだろうか。ガラスの川を渡らずに男に近づく。うなだれた上半身から伸びる腕、その先を見てみると、指は両手でピースをしていた。すると、男はまた暴れだし、口を大きく開けて(うごめ)く。


 体を少し引かせる。よく観察していると、額には黒い字で”公”と記載されていた。

「公……?」

 ピースは二と数字に置き換えられるが、公は難しい。公園の公、公共の公だが、それからすると一とも考えられるだろうか。しかし、それではあまり納得がいかない。おおやけとも読める。四文字だから四、こうと読めばニだが、これではピースの存在が当てはまらない。


 単にピースかもしれないので、パスワードを順に”一、四、二”と一つ一つ入力していく。それぞれエラーだった。これではない。ピースもなんらかの意味を持っている可能性が出てきた。二二と入力しても、エラーが出る。


「十三との組み合わせか?」

 とすると、星と公にはある関連性があるということだろう。公星、星公、どちらともそんな単語は存在しない。であるなら、なぞなぞかもしれない。英語やひらがなを変換させるなどの方法が思いつく。


「あぁ、ハムスターか」

 公を分離するとハム、星はそのままスター。これでおかしくはないが、だからと言って数字にたどり着くとは思えない。

「いや」


 扉の前に立つ。公と記された謎の男の手には二と二、流れ星が突き抜けてきたデスクトップには十三の数字。であるなら、二二一三と入力する。順番はハム、スターだからだ。


 エンターキーを押す。しかし、エラーと表示された。

「なんなんだよ!」

 扉を殴る。すると、途端に途轍もない地鳴りと振動が起きた。

「な、なんだ?!」

 思わず、頭を抱えてうずくまる。地震ではないようだが、天井がゆっくりと落ちてきていた。


「そんな馬鹿な!」

 ドアノブを握って乱暴にガチャガチャと前後に動かすも、全く持ってびくともしない。突進したり、殴ったりしても一切の変化はない。


「ふざけんな!」

 扉をあらゆる手段を講じて強引に解放しようすると、少し隙間が空いた。あっと声を漏らしてしまう。パスワードは一切の意味を持たず、まさかのスライド式の扉だったようだ。全開にすると、向こう側は光に溢れている。死ぬ前に扉の先に踏み込んだ。


     ・ ・ ・


「ぶわっ!」

 自分の部屋。太陽の日差しがすっかり差し込んでいた。上半身だけが勢いで起こしていた。

「なんだ夢か……」

 それにしてもすごい嫌な夢だった。目覚めも(すこぶ)る悪い。だるさもあり、足の傷もすっかり後すらない。


 時計を確認するために、パソコンが置いてある机に向かう。電気スタンド近くにある電子式の電波時計を確認すると、すっかり寝坊している。


「やっべ!」

 急いで部屋から出ようと思った矢先、机の脚に小指をぶつける。

「いってええええ!」


 とてつもない痛みだった。しかし、痛みで悶えてる時間もないため、急いで扉の前に行き、スライドさせようとする。

「あれ?」


 何度、横に動かそうとしても扉が開かない。パスワードを入力する物もなく、怪奇現象が多発するような異様な様子はない。

「なんで? なんでだよ!」

 繰り返しても扉はスライドしない。ガチャガチャとドアノブを動かして、隆太が唸る。無我夢中で動かしていると、扉が開閉した。


 そう言えばそうだった。隆太の部屋の扉は、ドアノブをひねって引けば開く扉。馬鹿みたいに焦ってしまった。隆太の顔にはきっと、苦笑いが浮かんでいることだろう。

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