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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第三章:鴉は心のぬくもりを知らない
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6:権能は使いこなしてこそ

「…むすっ」

「鴉羽様、金平糖ですよ」

「…むす」

「はい、あーん」

「んあー」


金平糖一粒で口を開き、上機嫌。

もごもごと口を動かし、手頃な大きさに噛み砕いて…それを飲み込んだ。


「そういえば、これってどこのお菓子なのですか?」

「色鳥時代が到来する前は、ポルトガルという国の舶来品だったらしい。今では翼製菓堂が開発し、専売看板砂糖菓子という位置づけにいたかな」


撫子が持つ袋には、確かに翼製菓堂のロゴが印刷されていた。

現在の金平糖は、確かに翼製菓堂が開発した砂糖菓子。ここでしか購入することができない看板お菓子となっている。


「ぽるとがる…不思議な名称ですね」

「色鳥時代が到来する前の世界は滅びているからな。不思議に思うのも仕方が無い」

「鴉羽様が、かつての世界の記録を保持しているのは…?」

「そういう権能だからだよ。統治は記憶を元に行うという色鳥の判断なのだろうね」

「統治って、命令する権能かと思っていたのですが…」

「それは金糸雀や…上手く使いこなせば白鳥の役目なのだろうね。知っているかい、撫子。恩寵を受けし者にはそれぞれ選抜理由が存在している」

「その理由は、私が聞いてもいいものなのでしょうか?」

「僕が一方的に喋るんだ。誰にも咎められることはない」

「…ものは、言い様ですね」

「ああ。この世は規則が多い。真っ当な理屈でそこから逸脱するのも、また一興なのさ」


「それで、選抜理由というのは」

「君も僕の過去を知ったとおりなのだが、鴉羽は知能と記憶力が高い子供が求められる。僕は「作られた側」だから微妙な性能をしているが、かつての鴉羽達は瞬間記憶能力等、とんでもない才能を持っていたぞ」

「へぇ…」

「白鳥は「美しい時代、醜くい時代を知るもの」らしい。今代は特に「みにくいあひる子」と言う絵本を好んでいたね。まさにその絵本通りなんだよ」

「どんなお話なのですか?」

「ふむ…ざっくりと言えば、アヒルの元に生まれた醜い色をした雛鳥は、家族にいじめられ、周囲からも迫害され…死のうと思い向かった白鳥の湖で、成長した自分を見るんだ」

「それで…その雛鳥は死んでしまうのですか?」

「いいや。向かうまでかなりの時間が経過していたようでね。雛鳥は大人に成長していたんだ。湖面に映った姿で、実は自分が白鳥はくちょうの子だったと知るんだ。物語はそこでおしまい」


「童話って、何かを伝えたい話なのですよね?そのお話は何を伝えたかったのですか?」

「んー…。色々あるだろうし、人の解釈次第と述べておく」

「左様で…」

「僕は「真の美しさは…外見だけではない」に詰まっている気がするね。少なくとも、歴代の白鳥はそれを知る存在でなければ白鳥になれなかった」

「…それは、どういう?」

「歴代の白鳥は、恩寵を受けし者になる前に「とても美しい女子」であると共に「酷く醜い姿」をしていたそうだ」

「外見だけの話ですよね?」

「ああ。元々美しく生まれた女子が、何らかの都合で顔や身体が醜くなってしまった。そして白鳥として恩寵を受けし者になる際に、今の絶世に戻った。それに喜ぶ白鳥は誰一人いなかったと記憶が述べている。勿論、今代の白鳥もだ」


「…かつての白鳥様だった方を、貴方は?」

「見ている。ここに辿り着いた時、僕が思い出したのは半身が火傷でただれた女。くすんだ薄茶色の髪はぼさぼさで、虚ろな目を浮かべていたよ」

「火傷…」

「恩寵を受けし者になった後、その顔に似ている存在がいないと思っていたが…白鳥が外見が変わる恩寵を受けし者と知ったら…間違いなくあいつだったんだろうなと。本人に聞く気はないし、撫子も火傷や火に関する話題を始め、奴に投げかけるのはやめておくように」

「わかりました…しかし、この忠告はなぜ?」

「撫子は白鳥の籠守をしている山吹と年齢が近いだろう?関わることも多く感じてな。流れで白鳥と出くわす可能性もある。なるべく関わって欲しくないのが本音なのだが…人間関係の都合、難しいこともあるだろう。だから忠告程度だ。気をつけるように」

「ありがとうございます、鴉羽様」

「礼には及ばない。君には沢山世話になっている。それに対する見返りを、僕は情報でしか提示することはできないからね。だからこれは、君の働きに対する正当な報酬だ」

「籠守として、賃金は頂いていますが…」

「それは僕からの礼ではない!僕からの報酬と思い、ありがたく受け取れ撫子ぉ!」

「は、はいっ!」


多少強引ではあるが、鴉羽なりに撫子のことを思っての事である。

鴉羽が撫子に世話になっているのは事実。

鴉羽の難がある性格。そして膨大な法務仕事。

例え高レベルな籠守を集めても…鴉羽の性格について行ける者は法務仕事に引っかかり、法務仕事をこなせる者は逆に。

両方をこなしてくる撫子は、九年経って初めての存在である。

大事にしたい気持ちは、ちゃんと存在している。

———しかし、この「強引さ」で接する事しか鴉羽は…菖蒲は知らない。

両親から貰った「優しさ」はこれだけなのだから。


「ちなみに、金糸雀の選抜理由は歌が上手いことらしい。権能の影響で歌うことが禁じられる気がするのだが」

「ああ。浅葱のお母様も歌手で、金糸雀様も歌が上手いと浅葱が…確かに、歌に感情を乗せるというのはよく聞きますよね。だから言葉に権能をのせやすいと思われているのでしょうか…」

「なるほど。そういう点か…しかし、なぜそこで浅葱の名前が出てくる」

「浅葱のお母様が先代金糸雀様のようで…勿論、今代の金糸雀様とも関わりが…」

「…これに加えて椋とも双子か。縁が狭すぎないか?」

「本人もそう思っているそうです…というか、なぜ彼女の名前が?」


撫子自身、鴉羽に浅葱と金糸雀、そして椋の間柄は口外していない。

だからこそ恐怖を感じる。なぜ目の前の彼女は…二人の関係を知っているのかと。


「ああ。先代鴉羽の記憶の中に先代金糸雀の娘達の名前がな。先代達は割と仲良しだったらしいぞ」

「えぇ…」

「浅葱が先代金糸雀の娘であるのであれば、椋…ここでは真紅と言うべきか。あいつが姉に相当するはずだ」

「…双子の間柄というのは気がつけないはずなのですが」

「これも推定白鳥を見かけた時…僕が恩寵を受けし者になる前の話なのだが、琥珀色の髪を持っていた少女を真紅と呼ばれていた少女が「なんでお前がここにいる」と言いながらいじめていてなぁ…」

「…昔から変わっていないのね」

「その少女が椋になった瞬間は見ていたから、真紅=椋。こいつにだけは近づかないようにしようと心に決めていた。先代金糸雀と娘と同名なのは気にかかっていたが、本当に本人だったとは思わなかったね」

「…記憶力の幅が凄まじい」

「全ての鴉羽の記憶を参照できるからな。これぐらいは朝飯前だ」


他の権能と比較したとき、鴉羽の権能は地味な印象を抱かせる。

記憶力の良さは本人の素養であるし、知識を蓄えたのもまた同じ。

それでも、鴉羽相手だからこそこの権能は使いこなせる。

どんな雑多な記憶でさえも、彼女は情報に変換するとこができる。

それこそ鴉羽に求められる才覚。権能の、最も有意義な使い道なのだ。


「しかし、それだとあの椋がとんでもない音痴だという事実は…ぷすす…」

「椋様、音痴なのですか…」

「ああ。一度だけ奴と一緒に参加させられた祭典の時にな。あれは信者の忖度無しでも聞くに堪えないだろうな。今この瞬間に鼓膜が失われて欲しいと思ったよ」

「真顔で仰られないでください…」


「ちなみに、浅葱はどうなんだ?奴と双子なのだろう?」

「研修職員時代に聞いた色鳥賛歌は普通に上手い感じでしたね。歌のことなんて、全然分かりませんけど…」

「そんな気持ち悪い歌が…あったな。記憶の端に追いやって抹消していた…」

「恩寵を受けし者がいう言葉ではないですよ、鴉羽様…」

「というか、奴は真面目に歌うのか?」

「点数稼ぎですよ…あれを歌う時は鳥籠の役人が参加する行事である日でもありますから…真面目にするように入れ知恵を、少々」

「なぜそこまでする」

「…それは、私の過去を話さなければいけません。浅葱と出会ったというか…浅葱の目的を聞いた、私が共犯者になった日のことを」

「…共犯?」


遡るのは、二人が研修職員をしていた時代。

撫子が浅葱の琥珀再会計画の全貌を、意志を聞き…彼女の協力者———鳥籠を壊しかねない共犯者となった瞬間まで遡ることになる。

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