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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第三章:鴉は心のぬくもりを知らない
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4:嘘で本音を覆えば

馬車の中。

あの後鴉羽に追い出され、御者席に座ることになった鳩羽を…鴉羽は窓からジッと眺めていた。


「ちょ、ちょっと鳩羽様…抱きつかなくてもいいでしょう!?」

「席が狭いから、君が僕の膝に座ればいいと思うんだよ」

「バランスも悪いし、それに貴方だってきついでしょう?」

「そんなことないよ。白藤、とっても軽いし…膝に乗る君は羽根が乗ったかのような———」

「そういう例え話はいらないから…!」

「でも、白藤殿って割と華奢な部類ですよね」

「そうかしら…?」

「私と比べて、とも思うんですけど。金糸雀様も撫子も、白藤殿も皆細くないですか?」

「ああ、確かにそれは僕も思う」


体格が良い浅葱や、身体の成長が色々と凄い鳩羽が異様なだけで、白藤も撫子も平均より少し下回る程度である。

勿論それを白藤は分かっているし、浅葱も何となくは分かっている様子。

だけど、全てを暴いた鳩羽的には…あばらが軽く浮いている白藤には肉をつけて欲しいとも思うわけで…。


「白藤、ちゃんと食べている?」

「最近は、あまりだったから…ごめんなさいね。みっともない姿を見せて…」

「みっともない姿とは?」

「あ、ええっと…実はこの前、どうしてもって時に、鳩羽様にお風呂に入れていただいたのよ。その時にその…最近あまり食事が摂れていなかったから、骨が浮かんでいる部分が…」

「あー…なるほどなるほど。お二人の間柄が成せる話ですね」

「そ、そういう訳なんだ。あの時の白藤は、他の人に頼ろうともしなかっただろう?君達には弱みを見せないようにしたかったようだし、ここは僕がと思ってね!」

「見せにくいですよね。長ですし。しかも就任したてほやほや…重責過ぎる中にあの親が投入されるんですから、気苦労も想像出来ますよ…」

「あの時は本当にごめんなさいね…」


迷惑をかけた自覚がある白藤から出る言葉は謝罪。

だけど、彼女より先に…浅葱には謝罪しなければならないことがある。


「いいですよ。それより、その…白藤殿」

「なあに、浅葱」

「過去の事、私と新橋の間で相談し…配慮を行うべきだと、新橋から月白殿に進言していただき、籠守の間で共有をさせていただいています」

「…」

「勝手な事をして、申し訳ありません」

「そんなこと?」

「そんなことって…」

「もう、終わったことだもの」


両親は死んで、二度と二人の影に追われることはなくなった。

白藤はもう、束縛を受けている身ではない。自由になれた上、自分の道を定めた。

もう、迷いも恐怖も彼女には存在しない。


しかし、過去の事を考えると…ほとんどの籠守は両親に大事にされた記憶がある。

籠守から相談を受けたり、恩寵を受けし者同士で話が出たことで、白藤と鴉羽の身に何が起きたか知っている恩寵を受けし者は金糸雀と鳩羽だけではなくなった。


「でも、そういうことね…山吹は毎日泣きそうな顔で私に会いに来るし、白鳥しろとり様からもお声がけを頂いて…まさかあの方から直々に声をかけられるとは思っていなかったから」

「思えば、白鳥様ってこの二ヶ月で見たことないですね…存在していたんですか?」

「基本的に外で広報活動を担っていただいているから…会う機会は少ないわね。私も年に一度、直接お会いできたら…ぐらいだし。白鳥様に会うことなく、籠守の任期を終える存在もいるらしいわよ」

「そんなに…。鳩羽様はどうなんです?」

「僕?確かに、白鳥とは全然会わないね…金糸雀並に会話した覚えがないよ」

「くーちゃんは事情があったとはいえ…」

「…浅葱。貴方、金糸雀様の事本名でお呼びしてるの?確か彼女の本名って琥珀…」

「白藤殿、なんで知ってるですか…?」

「変な敬語になっているわよ…?貴方の事を聞かされているんだから、それに関わる金糸雀様と椋様の事は聞いているわよ…もう」


規則違反がバレてしまった。

金糸雀を…琥珀をかつてのように名前呼びをしている事が知られてしまった。

よりにもよって、籠守長相手に…だ。

後でお説教を受けるのではないかと不安でたまらない浅葱の肩を、白藤はそっと叩く。


「怒らないわよ」

「…なぜ」

「…私も呼んでいる身だから、きつくは言えないもの。けれど。他の人の前でしたらダメだからね?」

「白藤殿も、呼んでいる」

「…なぜ僕を見るんだい、浅葱」

「いや、自然と本名を呼んでいる相手って、鳩羽様じゃないかなと」

「せめて、姉妹関係にある鴉羽を第一候補に挙げて欲しかったね!」

「そこんところどうなんです、白藤殿。もうここは私と共犯関係になりましょうよ」

「…鳩羽であっているわよ」

「ほらやっぱり」

「な、何か分かる要素があったりするのかしら…」

「普通に距離が近い」

「「…そう」」

「私とくーちゃんみたいに「幼馴染」だからとか言い訳ができるならともかく、今の白藤殿と鳩羽様って周囲に誤解を与えかねない距離感してますよ」

「ご、誤解とは…具体的に、どのような感じなのかしら」

「そりゃあ、付き合っているとかそういう系の」

「どどどどどどど同性なんだからあり得るわけがないじゃない!それに恩寵を受けし者との間に恋愛関係だなんて…!」

「同性でも結構付き合ってる人見たことあるんで…誤解だったらすみません。不敬罪で処さないでくださいね」

「…い、いや。君には色々と助けられているし、そういう誤解をさせた我々にも非はあるからね」


具体的に浅葱の脳裏にいるのは露草とか露草とか露草なのだが、軍属時代に同性同士で付き合っていた存在は結構見てきたし、くっつけたりしたこともあるので…さほど驚きはしない。

彼女がいた環境は明日どころか今日の命も保証されていない環境。

そんな環境だ。誰かと共に人生を歩みたいと思える存在がいたのであれば、異性だろうが同性だろうが一緒にいるべきだと思っている。

自分が両親と、自分が琥珀と引き離されたように…大事な人といつまでも一緒にいられる保証はないのだ。

せめて刹那でも、共にいられるように…手を尽くすべきだと、


白藤と鳩羽は浅葱や鴉羽撫子の手前、自分達の関係を公にすることはできない。

名前呼びならともかく、ましてや恋愛関係にあることを知られたら…どんな感情を抱かれるかわからない。

———この関係は一般的ではない。

ましてや十年前の人柱による弊害で人口が減り続けている現在。世間は若者世代に次世代を担える子を産むように推奨しているほど。

今この状況で、同性間の関係なんて知られたら糾弾されてしまうのは…嫌でも予想できた。


二人は必死に誤解だと述べるが…互いに視線で「体裁だから」と訴える。

今、この中で唯一受け入れて…なんなら周囲にも納得できるように自分の意見を述べられる存在の前で。

二人はまだ、関係をひたかくす。

互いが大事なのは事実なのに、大事にしている事を隠さなければならない。

なんなら、自分達がいる関係を貶めるような発言をしなければならない。

そのもどかしさと悔しさに、二人は苦笑いを浮かべることしかできなかった。

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