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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第三章:鴉は心のぬくもりを知らない
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3:馬車の上で

「———と、いった感じで動向をさせて貰っているわ」

「なるほどなるほど。白藤殿が同行したのはそういう訳…って」

「どうしたのかしら」

「…私が伝えた話、新橋は白藤殿に伝えに行ったんですけど、あいつどこに行ったんだ」

「そういえば、私の不在は出立後に行われる定期報告で伝えて貰う手はずになっていたわね。その時に情報共有も行うつもりじゃないかしら」

「それならいいんですけど…」

「それにしても、大分新橋と仲良くやってるわね」

「私も想定外です」

「あの子は昔から面倒見は良いけれど気難しい子だったから、慕われているけど距離は置かれて、普通に関われるのは萌黄だけだったの」

「へぇ…」

「これからも仲良くしてくれると嬉しいわ。それに、彼女から椋様の動向を聞くチャンスと思えば…関わらない理由はないでしょう?」

「た、確かに…」

「改めて、貴方の立ち位置は月白さんから伺っているわ。今後とも、悔いの残らない仕事を」

「はい」


鴉羽と撫子…存在感を消して悟られないようにしている鳩羽が乗る馬車の外。

御者を務める浅葱の隣で、白藤は今回の同行理由を共有していた。

復帰したての白藤がわざわざついてきたのには理由があると、浅葱自身感じていたが…結構しっかりとした理由が存在した。


「でも、白藤殿だって復帰したてなのですから、無理だけはなさらないでくださいね」

「ええ」

「…とりあえず、私の上着でも羽織っていてください」

「寒くない?」

「平気ですよ。むしろ暑いぐらいで」

「震えているのが隠せていないわ」

「…参ったな。こういう時は格好をつけたいものなのですが」

「無理をしないの」


白藤は少しだけ距離を詰め、浅葱に密着するように腰掛ける。

くっついたことで、掴みにくそうにしていた手綱は…片手で白藤が握りしめた。


「少しはマシかしら」

「お気遣いありがとうございます」

「いいのよ…しかし今日は冷えるわね。上着とか持って来たらよかったわ」

「そうですね。普段のこの時期であれば半袖を着始める時期なのですが…」

「まだ、冬物とは言わないけれどもう一枚欲しくなる気候なのは…人柱を用意する前年以来ね」

「…また、弱っているんですかね」


大きな声では決して言えない。

だけど、それは確かに再び現実として表面化してきている。

———色鳥の衰弱。

かつて人柱を用意したことで、一時的に力を取り戻していたようだが…十年は持たなかったらしい。

再び、異常気象が起こり始めた。

そういうことなのだろう。


「…そうじゃないと考えたいけれど、前例が前例だからね。貴方の不安もよく分かるわ」

「…今代の帰郷が早く行われる心配とか、した方がいいんですか?」

「帰郷自体は例年通りよ。十年に一度、色鳥様が世界を作られたと言われた日に…恩寵を受けし者は権能を返還する。日付に変更はないわ。今も準備が執り行われているはずよ」

「左様ですか」

「…何か、考え事でも?」

「いいえ。何でも」


無意識に触れるピアス。思考の中に浮かぶのは、大好きな幼馴染の姿。

彼女を失う日は、刻々と近づいている。

けれども、その日付に変更はない。

…まだ、やりようはある。


「あら、そのピアス…」

「ああ…実は、父の遺作が見つかりまして。せっかくなのでと」

「月白さんがつけているピアスと同じね。同じところで買ったの?」

「あー…ええっと、白藤殿を信頼してお話しするのですが」

「ええ、なにかしら」

「私の母親が、先代金糸雀様でして…月白殿がつけているピアスは父が母に贈ったものになります」

「月白さん、先代金糸雀の籠守をしていた時期があるとは聞いていたけど…まあ、そんな繋がりが…」

「世間って狭いですよね」

「そうねぇ…」


白藤自身、世間の狭さは痛感している。

恩寵を受けし者になる確率は非常に低いのに、瑠璃と雀のような上層部の娘が複数、それに椋と金糸雀のような同郷の存在は非常に珍しい。

鳩羽と東雲に至っては偶然すぎて恐ろしいし、鴉羽と白藤のような姉妹が同時期に存在することも、記録上初のことになるはずだ。

浅葱や露草のように確率を確定にした組み合わせに触れるのは…。

ああ、忘れてはいけない。

萌黄だって、確率を確定にして見せた。自分の主を追いかけて、彼女と今も添い遂げている。


…今代の恩寵を受けし者と籠守の関係は狭い。意図的に関係者を集めたのではないかと思うぐらい、偶然は必然性を帯びている。

それに、浅葱の母親…先代金糸雀が良い例なのだが、子を持つ母親世代が恩寵を受けし者に選ばれることもある。

むしろ今まで、朱鷺を除けば成人している十五歳以上の女子が選ばれていた。浅葱の母親の様に経産婦も当然存在している。


しかし今代は鳩羽以外恩寵を受けし者になったタイミングで、成人である十五歳を迎えていなかった。


「…え、なにこれ」

「どうしたの?」

「いえ…白藤殿は」

「ええ、なにかしら」

「…ピアスに、憧れがあったり?」

「そうねえ。確かに、今まで装飾品の類いを身につけたことがなかったから、こうして身につけている人がいたら、羨ましいなって思うのよ」

「なるほどなるほど」

「浅葱や月白さんが身につけているピアスはシンプルなデザインでしょう?初めてなら、手に取りやすいデザインだなって思って…でも、耳に穴を空ける事を考えたら凄く怖くって」

「ノンホールタイプのものもあると聞くのですが…お父さんが生きていたら相談できたのになぁ」

「気持ちだけで十分よ。ありがとう」

「いえいえ。でも、そうだな…白藤殿なら、髪も長いですし、髪飾りとかどうでしょう」

「そうかしら」

「ええ。いいものは、鳩羽様が見繕ってくれるそうなので」

「鳩羽様…?」


馬車のキャビンから身を乗り出し、浅葱に指示を書いたメモを渡そうとしていた鳩羽の権能が解け、その姿が露わになる。

中から撫子と鴉羽が驚く声がする。


「な、なんで鳩羽様!?」

「おおおおおおおお前!いつから紛れ込んでいた!最初からか!?最初からなのか?!」

「二人とも、隠れていたのは謝るから馬車を揺らさないで!落ちちゃう!落ちちゃう!」


揺れた衝撃で、鳩羽の手から浅葱への指示書がこぼれ落ちる。

その中には「白藤に髪飾りとかどうかとかさりげなく聞いてくれ」…と、なんとも情けない頼み。

浅葱はまだ二人の関係を知らないので「あの時買っていた髪飾りをプレゼントで渡したいのだろう」と思って動いていた。

しかし、白藤と鳩羽は互いに想い合っている定義上恋人の間柄である。

のちに二人の関係を知った浅葱が開口一番「自分で聞けよ」と言い放ったのは別の話となる。

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