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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第三章:鴉は心のぬくもりを知らない
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1:出立準備

鴉羽が杜若から泣きつかれて早二週間。

私側の準備も終えて、出立の日がやってきた。


「浅葱。これ」

「なんだよ新橋。見送りに来るとか。遂にデレ期?」

「な訳ないだろう。萌黄からこれをお前に渡すように頼まれたんだ。こんな日に忘れ物するなよ。御者」

「誰が御者だ」


腕の固定具が外れて、自由になっている新橋が投げた物は何かの袋。

浅葱はそれを軽々と受け止め、不思議そうに眺める。


「…お前しか護衛兼御者兼荷運び役ができる人材がいないから抜擢されたと聞いた」

「何でも屋みたいな言い方するのやめてくれる?」

「事実じゃないか。それで、中身はなんだ?お前のことだから武器でも忘れたんだろう?やめろよそういうヘマ。私までお前とどっこいの恥さらしに思われる」

「な訳ないだろうが!腰の銃が見えないか!?」

「見えないふりをしているだけだ」


ああいえばこういう。

出会った時よりも軽い空気の中で過ごす二人を傍目に、撫子は荷馬車に詰め込まれた物品確認を続けていく。

深夜のアイロンがけ訓練で、二人の関係性は大分ほぐれたというか…ほぐれすぎていた。


「それから、これも忘れていたぞ」

「なんで出先でもアイロンを持ち運ばないといけないんだよ!?」

「お前が下手くそだからだ。練習しろ。撫子に見て貰え。撫子なら任せられる」

「ぐぬぬぬぬ…!」

「撫子。このポンコツは戦う事しか能がないから。ちゃんと家事を仕込んでくれ」

「わかっているわ、新橋さん。ちゃんと自立が出来るように面倒を見るから…」


「およよ…年下に面倒を見られて恥ずかしくないのか、浅葱…。撫子、こいつはいつでも見捨てていいからな。気苦労が絶えないだろう。ストレスの根源は断ち切るに限るぞ?」

「お気遣いありがとう…。でも、浅葱は大事な恩人で友達だから。そんなこと絶対にしないわ…」

「撫子〜!優しい〜!私もう撫子の子供になる〜!」

「…年上の子供を持つ趣味は流石にないわよ」

「堂々と面倒を見てもらう宣言か…恥を知れ。恥を…」

「…すみません」


流石に十六歳の撫子に面倒を見て貰う宣言はまずかったと自覚した浅葱だが、撫子に抱きつこうとするのはやめない。

だけど撫子も仕事中の身。軽く躱し、浅葱の腕を回避した。


「そういえば、くーちゃんはどんな感じ?」

「私に聞くなよ」

「いや、新橋は萌黄殿と仲良いからさ…」

「金糸雀様は翡翠様と談笑をされていたぐらいしか知らない。本当に通りすがりなんだよ…」

「それならいいんだ。すまないね」


「別に…。ところでお前、金糸雀様にどう理由をつけてここにいるんだ?あの方はお前が側を離れるのは嫌がるだろう」

「鴉羽様の護衛に抜擢されたとだけ〜。後は…何か知らないけど、撫子のメンタルケア役。私が一番仲が良いからって」

「…むしろお前は心労をかける側じゃないか?」

「うるさいな…」


「でも、わざわざそういう名目で抜擢したという事実は気になるな」

「鴉羽様の護衛というよりは、そっちの方が優先度が高そうだけど…新橋的にどう思う?」

「…私からしたら、お前をここから離れさせて椋様の自由にさせる時間を作ると考えてしまうが」

「あいつは今、自由に動けないからねぇ…」

「そうなんだよ。だから、お前をここから追い出すのが主題ではないと確信している。鴉羽様の護衛にしたって…撫子で十分だろう」

「あの過度な護衛隊の配置を見たらねぇ…」


浅葱達がいる荷馬車と、鴉羽が乗る馬車を囲むように、色鳥社の護衛隊が出立の準備を進めていた。

流石に数えることは出来ないレベル。こんな大量に投入していいのか不安になる程に。


「お前の役割は、派遣される鴉羽様の護衛が主だろうが…」

「撫子の方が気になるんだよね。行先、撫子の出身地だからさ」

「…過去、何かあったのか聞いたことは?」

「一応、白藤殿の時みたいなことがないとは限らないから共有しておくけど…撫子とその両親もあまり仲がよくない。こっちは田舎の農村の典型ね」

「あー…察した。子供も多いのか?」

「九人の弟妹がいる」

「きゅうにん…」

「まあ、産んで増やして労力に。子供の教育は撫子に全部任せてたらしくて…家を離れた研修職員時代も、色鳥社に九人全員で押しかけて、お姉ちゃんに会わせてくれ。お姉ちゃんがいないと生活が大変だって揉めた事があって。なんなら、ここにもたまに来てる。私が追い返しているけど」

「げぇ…」

「撫子が地元に戻るからないとは思うけど…もし来たら、体よくあしらっておいて欲しい。勿論、撫子の居場所は漏らさないで」

「了解。一応他の全員にそれとなく共有をしておく」

「助かるよ」

「こういう時はお互い様だ。お前も変な事に巻き込まれているようだが…まあ、気をつけて」

「心配どうも…くーちゃんのこと、それとなくよろしくしておくよ」

「…私に任せるとはな」

「真紅はともかく、あんたはあんま…話せる人とは思うし。頼れる人だとは、思っている」

「…そうか」


新橋は背を向けて…伝達事項を共有するため、白藤の元へ。

浅葱はそれを見送った後、撫子に目線を向ける。


「…」

「どうした、浅葱」

「ああ、鴉羽様ですか。今回もよろしくお願いします」

「頼りにしている。まあ、僕の事よりは撫子のことを気にかけてやってくれ。地元に戻ると聞いてから、様子が非常におかしい」

「…」

「聞き出そうとしても、はぐらかされる。僕ではどうしようもない」

「撫子の逃げ場所として、頼れる存在として…私を同行させるのでしょうか」

「…杜若の狙いはよく分からないが、君が必要になるから今回の件に同行させたのだろう。悔しいね」

「…へ?」

「僕一人では役不足ということらしい。撫子も撫子だ。一ヶ月程度の仲だが、僕らはそこそこ上手くやれている部類だ。僕自身も真面目なあの子を買っている。どうして僕に信頼を寄せない。そこのところどう思う、浅葱」

「…不敬罪覚悟で言わせていただくと、鴉羽様はその…私と一緒です。撫子に世話される側」

「僕は二十歳だぞ!?撫子の四つ上だぞ!?」

「奇遇ですね。私は十九。撫子の三つ上です。それでも世話されています。鴉羽様とは仲良くやれそうです」


「…撫子の世話を、したい。あんな愁いを浮かべる撫子は見たくない」

「奇遇ですね。私も頼りになる大人になりたいです。あんな凝り固まった笑みを浮かべる撫子は撫子ではない。普段の撫子がいいです」

「…お前とは本当に息が合うな」

「そうですね。撫子関係だと絶対に仲良くやれると思うんですよ、私達」


浅葱と鴉羽が背後で握手を交わす。

恩寵を受けし者と籠守の垣根を越えた———撫子の世話を、撫子を甘やかしたい存在が交わる。

後に新橋から「撫子同盟」と呼ばれるポンコツコンビ、その爆誕の瞬間である。


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