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鳥籠と籠守  作者: 鳥路
第一章:歌えない金糸雀が求める唯一は
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6:食事前の打ち合わせ

浅葱がかつて住んでいた村は、山間部に存在していた。

農作物はじゃがいもだらけ。

他は基本的に近隣の村とじゃがいもを交換して手に入れていた。


あの人物が好んで食べていたのは、そんなじゃがいもをふんだんに使ったシチューだった。


あの村に住んでいた子供なら、じゃがいもたっぷりシチューは避けて通れない気がする。

浅葱はうろ覚えだが、義務的に食べていたと思う。

なんなら、九歳ぐらいになると飽きていた。

料理が得意ではなかった浅葱の父は、これをよく作っていたから。


あの日の前日だって、浅葱の晩ご飯はシチューだったことを覚えている。

父が作った最期のシチューになることを知らないままに。いつも通り飽きを隠せない顔で食べたのを、覚えていると同時に…後悔している。


そんな彼が殺され、姉が色鳥に選ばれた日の晩ご飯も、シチューだった。


憔悴した浅葱を連れ帰った彼女とその両親が、元々予定していた晩ご飯を食すことになったから。

食べる元気がなかった横で、大好物らしくがっついていた存在。

父親を失い、生きる気力を失っていた浅葱の手を引き、人生を彩ってくれた少女。


その彼女こそが、浅葱がここに来た目的の一つ。

浅葱の、会いたい人物である。


◇◇


夕食の時間。

籠守達はそれぞれ厨房へ足を運び、今日の晩ご飯を受け取りに行く。

受け取りに行く時間はそれぞれバラバラだが、夕食提供開始と同時に行くと、確実に撫子とは会える。

鳥籠の中で再会したのも、実を言うとこの時間だ。

会うまで互いがここに来ていることは知らなかった。


「浅葱」

「や、撫子。さっきはアドバイスありがとう」

「気にしないで。それで、何を作って貰ったの?」

「シチューだよ。じゃがいもたっぷりのね」


お盆の位置を撫子でも見えるように、浅葱は下げる。

そこには、シチューと付け合わせのサラダとパンが二皿ずつ置かれていた。


「貴方が住んでいた山間部の村はじゃがいもが特産品と聞くものね。いい選択だと思うわ。でも…なんで二皿?」

「私も食べようかなって」

「同じ食事を食べるの?」

「うん。一人で食事するより、大人数で食事した方が楽しいし…それに」

「それに?」

「私はシチューを一人で食べられない。色々なことを思い出すから」


無表情の中に、影を落とす。

撫子は勿論、浅葱の父親に関する話もしてもらっている。

浅葱の目的の全貌を知るには、彼の死は通れない話なのだから。

彼女の表情を奪った父親の死は、浅葱に強い感情を植え付けた。

その原因になった人物への強い憎しみを彼女は抱き続け、ここにやってきた事を…撫子は知っている。


「…一緒に食べて貰えるといいわね」

「ダメだったら、撫子が付き合ってよ」

「はいはい。一時間後に中央広間へ出てきてあげるから、食べて貰えなかったら外に出てきなさい」

「ありがとう撫子ママ」

「貴方が産まれた時、私はまだ産まれていないわよ?」

「…え?」


浅葱の声は、至って真面目。

冗談を行っている空気ではない。

撫子はそれに気がついて、愕然とし…浅葱もその動揺の影響を受けていく。


「え、撫子って二十歳でしょ?私より年上…」

「十六よ!?」

「だってしっかりしてるし…」

「今まで身長のせいで年齢以下に見られることはあったけど、年上に見られていたとは…」

「精神年齢が高いから仕方ないよね」

「大体は、外見年齢で判断すると思うの…」


呆れながらも、自分が言っていることに気づきを覚えた撫子。

撫子が浅葱を無言で見上げると、視線を感じた浅葱が目を合わせてくれる。


「どうしたの?」

「正直、信用はしていないんだけど…貴方から見て、金糸雀様はおいくつぐらいに見えるの?」

「え、そうだな…。衰弱しているし、元々小柄な方みたいだから、撫子同様わかりにくいけど…少なくとも十八歳は超えていると思う」

「どうしてそう思うの?」

「撫子は知っている?カラーバード戦隊」

「一応知っているけれど、内容は知らないわ。私が産まれる前に出た娯楽絵本よね?」

「うん。私達が子供の時に流行っていた絵本で、ぬいぐるみとかも発売されたんだけど、流行の入れ替わりは早くてね。撫子の時期にはクックバードさんが主流だったんじゃない?」


注文した食事が出来上がったらしく、撫子もお盆を受け取り…二人で中央広間までのんびり歩き出す。

話の続きは、歩きながらでもできた。


「ええ。大好きだったわ。でも、そのカラーバード戦隊が…」

「金糸雀様の部屋の中にぬいぐるみがあったんだ。カラーバード戦隊の最終刊が発売されたのが、私達が三歳の頃。それからクックバードさんの刊行が始まって、戦隊の方は商品展開もなくなっていったんだ」

「具体的にいつまで商品展開がされていたか…ってところよね。第三者から譲られた可能性もあるけれど、金糸雀様がここに来る前に買って貰った品である可能性も高いものね。そのぬいぐるみが発売されたのもいつなのかしら」


廊下を歩く中、他の籠守ともすれ違う。

その中の一人が、二人の会話に興味を抱き、さりげなく話に入ってきた。


「十七年前っすね。受注限定品なんですよ、カラーバード戦隊のぬいぐるみ」

「そうなんですか、ええっと…」

「ああ、噂の新人さんっすか。あたしは萌黄もえぎ翡翠ひすい様の専属籠守っす」

「萌黄殿ですか。私は撫子。鴉羽様の専属籠守です。こちらは浅葱。金糸雀様の専属籠守です」

「なかなか癖強なお二方に当たっちゃったんすね。まあ、その辺の話はまた後日、時間を見つけて行うとしましょう。今回はささっと本題だけ。食事が冷めちゃったら怒られる可能性が高いっすからね」


声をかけてくれた萌黄は、撫子と浅葱の名前を控えた後、話の続きをしてくれる。


「そのぬいぐるみ、金額も高く、持っている方はなかなかに珍しいっす。購入者はまず他人に譲らないでしょうね。商品発送後から一万が十万のプレミア商品に化けたんで…。今でも、汚れが酷くとも正規品であれば最低三十万は動きますよ」

「「げぇ…」」

「そんな代物ですから、大体は親御さんの手作りっすね。そっちの方が安上がりっす」

「手作りと受注品の見分け方は?」

「タグがついてるっすね。彩式工房と彩書店の二つっす。あ、やべっ、うちの人、時間に厳しいんで!聞きたいことがあれば、明日の自由時間に中央広間にいるんで!」


小さな音を出し始めた時計に反応し、萌黄は急いで調理部の方へ駆けていく。

本人が見えていなくとも、お礼の気持ちを込めて去りゆく萌黄に二人は頭を下げ、中央広間へ足を進めていく。


「とりあえず、今日の食事時間に確認すべきことは三つよ」

「年齢と、シチューでの反応と、ぬいぐるみのタグだね」

「ええ。約束通りの時間で落ち合いましょう。結果はそこで聞かせて頂戴。それじゃあ、私はここで」

「ありがとう、撫子」


黒色の扉に進む撫子の背を見送って、浅葱は黄色の扉の先へ進んでいった。

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